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夢だと云ってのnetfilmsのレビュー・感想・評価

夢だと云って(1998年製作の映画)
3.7
 情緒不安定な19歳の男の子とそれを見守る家族。彼のハンデを世間がとやかく言っても、この家族はジュリアンを優しく守っていた。しかし、ジュリアンが引き起こした“いたずら”が思わぬ騒動となり施設に入れられそうになる。そんな騒ぎの中、おばあちゃんがこの家の家族に隠されたある重大な秘密を打ち明ける。家族の食卓の風景が何度も反復されるこの映画では、障害を持った長男に周囲の人間が懸命に愛情を注ぎ続ける。父親はジュリアンの宇宙への憧れを共に応援し、家族で天体の動きを再現してみせ、妹はキスの仕方を知らない兄のために、ニセの恋人役を買って出る。ジュリアンの誕生日にはミュージカル風の祝福を家族総出で行い、貧しい家計にも関わらず、ジュリアンにバイクをプレゼントする。そんな家族の姿が実に素敵で温かい。それぞれに小さな問題は抱えつつも、ジュリアンの存在が家族を繋ぎ止めている。前半はジュリアンを施設に入れたくない家族と、施設に入れるべきという周囲の人間との軋轢を描く。

 この家族、両親以外の弟、妹、おばあさんは全て素人を起用している。撮影は実はルプシャンスキーで、室内撮影では手持ちカメラを多用して臨場感を演出している。ムリエラスはもともとドキュメンタリー出身で、劇映画の中にある種のリアリズムを持ち込むのが得意な監督である。スタイルはベルギーのダルデンヌ兄弟に近い。ただその中でも、中盤のバイクとバスが並走するシーンなどは実に躍動感がある。高架下をくぐり、彼が可愛がる牛に危機が訪れる場面などは、活劇としてもなかなか味わい深いショットのつなぎを見せてくれる。ジュリアンが引き起こしたいたずらというよりは、ある一つの事件がきっかけとなり、父親はこれまで頑に拒み続けた息子の施設への入所を決断するのだが、個人的にはここで明らかになったもう一つの秘密が、前半の家族の素晴らしい流れを断ち切ってしまっているように見えるのが少し残念である。ただそれでも、稲藁を敷いた小屋の中に兄弟4人が並んで横になる場面は文句なしに素晴らしかった。
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