フランスで第二次大戦時に起こったユダヤ人一斉検挙を題材にした作品。題材は史実だけれど、登場人物や出来事はフィクションで、ホロコーストを題材にした作品としては、近年の中でむしろ稀なスタイルと言えるかも知れない。
物語は大戦当初に生きたユダヤ人の少女サラを主人公にしたパートと、当時を追うジャーナリストの女性を主人公にした現代パートを交互に映し出す事で構成されている。大戦当初の描写は、当時の社会全体ではなく、あくまで少女の目線で捉えられているし、ジャーナリストの取材も戦後60年を経ている事もあり、なかなか核心に辿りつけない。本作は戦争体験そのものを伝えるのではなく、戦争体験を伝える事の難しさを描いた作品なのだと感じた。
サラには殆ど台詞がない。彼女が目にした悲惨な光景も、敢えてカメラは捕らえない作りになっており、あくまで観る者のイマジネーションと思考に委ねているように思える。ホロコーストを題材にしながら実話物の手法を採らず、あくまでも映画としても描き方と、メッセージの伝え方にこだわった点で、とても優れた作品だと思う。