こたつむり

ハイヒールのこたつむりのレビュー・感想・評価

ハイヒール(1991年製作の映画)
3.0
★ 愛情は有限ですか?
  憎悪は無限ですか?
  あなたを待ち侘びて指先は赤く染まる…

とても歯応えのある作品でした。
物語としては、離れ離れに暮らしてきた母娘を軸に描いたサスペンス。ある殺人事件を追う形で物語は展開しますが、それは表層。中身はドロドロの愛憎劇なのです。

この辺りの題材選びはスペインならでは。
情熱の国ゆえに愛も憎しみも燃え上がり、男女の間に“謎”を残していくのでしょう。なるほど。“ミステリ大国”と呼ばれる所以が分かった気がします。

ただ、正直なところ。
本作に限って言えば、ミステリとテーマが上手く融合していない…そんな印象が先立ちました。特に主人公の内面描写に物足りなさを感じたのは致命的だったと思います。

でも、それはミステリ自体が抱く構造の問題。
しかも、容疑者はたったの三人ですからね。
誰が犯人なのか…その謎を成立させるためには仕方がないのです。

また、本作で重要なのは音楽。
なんと坂本龍一“教授”が手掛けているのですが、演出も含めてテーマの一翼を担っていました。特に《彼女》が踊る場面は本作の目玉だと思いますよ(その後に下着がチラリと見える場面も含めて…うぷ)。

そんな本作を仕上げたのはアルモドバル監督。
他の作品に比べたら“はっちゃけ具合”は控えめでしたが、フェチズムに拘る構図や“母性”をテーマにしているのは同じ。独特のセンスが光っていました。

そして、色鮮やかな映像とは真逆に、作品全体を包み込む雰囲気は厳しくも優しく。社会的な倫理観よりも感情を優先させる筆致は相変わらずなのです。

まあ、そんなわけで。
サスペンスという名の表皮の奥にある“はらわた”。それを味わうのが本作の醍醐味ですが、朴訥としたテンポが眠気を誘ってくる場合もあります。そういう意味では人を選ぶ作品ですね。

そして最後に。
人が人を想うこと…それ自体に終わりはなく。
だから、この世は厳しく、難しく、そして楽しいのかも。
こたつむり

こたつむり