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ハイヒールのRのレビュー・感想・評価

ハイヒール(1991年製作の映画)
4.0
大昔に2度ほど見る機会があり、その後まったくソフト化される様子がないからもう見れないのかな、と思ってたらTSUTAYAに発掘されてた。ナイス! ボクが世界一好きな映画監督のひとり、アルモドバルの中期ぐらいの代表作。オープニングクレジットから、バカげてるほどド派手な色彩センスと最高に渋い音楽がたまらない。画面に大きくTacones Lejanosとタイトルが出て来たとは、待ってました!と思わず拍手。わーい。15年ぶりにメキシコからマドリードに帰って来た母ベッキーを空港で待つ娘のレベーカは、真っ白なシャネルのセットアップに真っ赤なカバンを合わせてシャープに決まり、出て来た母はアルマーニの真っ赤なドレスとハットにブロンドヘアがカッコよ過ぎて息を呑む。自分の欲望に素直で、そのためなら何年でも娘を放ったらかしにできる母への、切ないまでの愛と憧憬と少しの憎しみを、硬直したようなポーカーフェイスの奥に秘める悲しみのレベーカ。独特な癖の強い小柄なビクトリアアブリルが始終涙を流しながら好演してます。反対に、豪奢で派手で表情豊かで活力に溢れる身勝手な母ベッキーを演じるのがマリサパレデス、この人は僕の最愛の女優の一人ですが、オーラが傑出してて、すさまじい存在感。こんな深い人情と愚かさと現実味のなさを全身で体現できる女優は彼女をおいていない。何とレベーカは母の元カレと結婚し、それに驚いた母のベッキーがマドリードに戻ってきたのであります。この結婚相手がまたとんでもなくいけ好かない野郎で、ドラッグクイーンのショーを親子で見るのについて来て、クイーンに差別的な悪態をついたりする。そんな旦那がその夜、何者かに殺され、一体その犯人が誰なのか、というミステリーを軸に話が展開していく。だが、それが本題なワケではなく、それによって明らかになり、また、新たに展開していくこの母娘の関係が中心になっている。普段は激しい展開がめまぐるしく連続するアルモドバルだが、本作は全体として割としっとり。とはいえ、非常に魅力的なステージ上の(口パク)歌唱シーンや、一回だけ突然始まる楽しいミュージカルシーンなど、随所でワクワクするシーンがあり、単調な語り口の奇妙なスパイスになってる。ただ、逆にメインストーリーが少々追いにくいと感じる部分があるのも確か。それはアルモドバルの長所でもあるのだけれど。のちの作品では全体の流れが美しいほどスムーズになってるけど、本作ではちょっと追いにくさが気になった。あのドラッグクイーンの顛末については完全に記憶から抜けてて、すんごい展開やな、とビックリやった。終わり方も落ち着いた渋みと人生のビタースウィートさが身にしみて、非常に感慨深い。ただ個人的には、アルモドバルらしさにあふれた作品ではあるが、他のほどのインパクトは得られなかったかなーという感じ。とはいえ、好きやで。見る人によってはハートがっちり掴まれるやろなーと思った。
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