シズヲ

キング・コングのシズヲのレビュー・感想・評価

キング・コング(1933年製作の映画)
3.9
美女が怪物を殺したんじゃなくて、デナム監督の好奇心が怪物を殺してるよなあ。キングコングはたいへん凶暴な顔付きをしているし、人間を踏み殺したり恐竜の顎を裂いたりと残虐性にもかなり容赦が無い。でも表情や所作に人間味があるお陰で、なんというか悪役俳優みたいな憎めなさがある。拐ったフェイ・レイを興味津々で見つめる姿は不気味なのに愛嬌すら感じてしまう。自分の血をまじまじと眺めてヒロインに追い縋ろうとする死に際も何処か物悲しいし、2005年版でナオミ・ワッツもそりゃ庇いたくなる。そもそもコング、完全に文明サイドのビジネスに巻き込まれる側だもんなあ。

ストップモーション・アニメで動くキングコングは流石に後年の着ぐるみ怪獣ほどの重量感こそ無いものの、それでもジャングルや市街地を背景に大暴れする姿には中々の迫力がある。撮影隊や原住民が襲われる下りにも一定の臨場感があるし、有名なエンパイア・ステート・ビルを登るシーンも印象的。恐竜と取っ組み合いの格闘を繰り広げる場面も撮影の労力を考えると凄い。

時代を感じるのも確かだし、中盤で“ヒロインが恐竜に襲われる→コングが助ける→死闘の末に恐竜が倒れる……”みたいな下りが数回繰り返されて中弛みするのはちと気になる。それでも30年代にこれだけの映像を撮れること自体に唸らされてしまう。街中で女性達が配給に並び、ヒロインがスリで生活していたり、世界恐慌時代の背景を伺わせる描写が垣間見えるのも興味深い。キングコングも様々な暗喩の可能性が考察されているらしいのが面白い。

あとラストが有名だけど、映画の大半は未開のジャングルが舞台となっている。尻尾を引きずるようなオールドスタイルの恐竜もいっぱい出てくるので味わい深い。コングと恐竜のバトルも幾度となく描かれているだけに、『髑髏島の巨神』が怪獣大バトル方面に舵を切った気持ちもなんかわかってしまう。
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