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ステート・オブ・グレースのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ステート・オブ・グレース(1990年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

NY有数の無法地帯ヘルズ・キッチン。テリー・ヌーナンはかつてこの街で鳴らした札つきの不良だったが、不慮の殺人事件を機に数年前に出奔、そして少年時代を過ごしたこの街に舞い戻ってきた。潜入捜査官という身分を隠して…。

アイリッシュ・マフィアの世界を舞台に、ナイーブな若者たちの青春をスタイリッシュな映像で描くマフィア映画の秀作。
90年代の作品だが、後のアカデミー主演男優賞を獲得する若きショーン・ペン、ゲイリー・オールドマンの熱演に加え、今や個性派の名脇役エド・ハリス、ジョン・タトゥーロ、ジョン・C・ライリーが顔を揃える豪華キャストの作品。

物語は潜入捜査官モノにありがちな設定。
主人公が潜り込んだマフィアに染まり、罪を重ねる罪悪感に苛まれ、危険な目にあったりする。
そこに若者の友情や恋を加えたところが本作の味である。

テリーを迎えたのは、辺り一帯をしきるアイリッシュ・マフィアのボス、フランキーの弟でヌーナンの幼な馴じみだったジャッキー。
ジャッキーの妹、キャスリーンはヌーナンのかつての恋人だった。
しかし昔の仲間との再会を懐かしむ間もなく、ヌーナンは自ら申し出てフランキー一家の一員となり、ジャッキーらと放火や恐喝も厭わない非情な借金の取り立てをこなしていく。
しかし、フランキーも縄張りを死守するために敵対するイタリア・マフィアと手を結ぶことになった。

イタリア・マフィアから金を借りていた幼な馴じみのスティーヴィーが殺される。
実は彼の兄フランキーが敵対組織との友交関係のために手を下したとも知らず、ジャッキーは激昂して酒場で敵の幹部3人を射殺。
イタリア・マフィアの首領ボレリは、フランキーに弟を消すよう命じる。

潜入捜査官という真実の顔を持つテリーだったが、職務を捨てて友の復讐を誓う。
折しもアイルランド民族祭でストリートが賑わう中を単身敵地に乗り込み、自らも銃弾を受けながらも友を犠牲にした張本人のフランキーを倒す。

状況を改善しようとしても、何もかもうまく行かず、裏目に出る遣る瀬無さ。
友情を取るか?職務を取るか?に悩み、酒に溺れて嘆き苦しんだ末、恋人に全てを打ち明ける。
内なる葛藤に震えるショーン・ペンのナイーブな演技が光る。

一方、ジャッキー役のゲイリー・オールドマンのキレ芸は天下逸品。
風呂に入らぬ油ぎった髪と髭、いつも同じ革ジャンを着た汚らしい「狂犬」のような鉄砲玉だが、彼の暴力は兄の面子を守るため、または友のために行使されるためであり、ある意味「忠犬」。
イタリア・マフィアから兄を守るべく、会合への殴り込もうと気持ちがはやるシーンは狂犬と忠犬の両方が垣間見えて実にスリリング。

この2人の静と動の対比が実に見事だ。

組織の非情なボス・フランキーを演じるのはエド・ハリス。
マフィアモノの冷徹で老練なワイズマンの役割を、まだ若いながらも、あの冷たく光る青い瞳で好演。

潜入捜査の上司でいかにも潜入捜査の「ネズミ」の立場が似合うジョン・タトゥーロ、借金まみれの情け無いチンピラのスティーヴィー役のジョン・C・ライリーも良い味を出している。
ヒロインのロビン・ライト(その後ショーン・ペンと結婚した)も、汚してはいけない「掃き溜めに鶴」のお姫様役で輝いている。

NYの裏びれた街のロケも雰囲気を盛り上げる。
ラストはサム・ペキンパー作品ばりのスローモーションを多用した外連味たっぷりの銃撃戦だ。

マフィアモノにしては、ショッキングな暴力は控えめで、ストーリーもスタイリッシュな映像のせいか、とても静かなものに感じるのが難点。
その分、キャラクターの描写に力を入れており、今や名優となった2人のアカデミー賞俳優の素晴らしい演技を見ることができる。

マフィア映画なのに(役者陣にとっても、物語の展開も)青春時代の若さに任せた勢いと青臭い葛藤と正義感を感じる。
それがカッコ良いと同時に、情け無くもある。
「ほろ苦い」という形容詞が似合うマフィア映画である。
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