Solaris8

霧の中の風景のSolaris8のレビュー・感想・評価

霧の中の風景(1988年製作の映画)
4.3
話は脱線するが、11/4 富山に帰郷して、黒部市の吉田科学館で「剣の山」という映画を観た。山岳警備隊で剣岳で遭難死した父を持ち科学部に所属する高校生が科学部顧問や部員と剣岳目の前の剣沢に登山しキャンプ泊する短編映画だが、短編映画はプラネタリウムに投影された。プラネタリウムで映像を観ると立山連峰に囲まれた星空がゆりかごのような映像だった。

父の友人だった科学部顧問が父を失った青年を励ますのだが、地球の自然や生命が何万年もの時をかけて、今日のこの日がある事を説き、科学館の役割を担いながら物語が破綻していなかった。夜空の星座はギリシャ神話から作られ縁が深いのだが、ギリシャ神話に彩られた世界も長い歳月をかけて世界で語り継がれた物語である。

「霧の中の風景」は自分が東京転勤になって上京した年に観たが岩波ホールでなく、昔の日比谷シャンテだったと思う。「霧の中の風景」には「旅芸人の記録」に出演していた一座のメンバーが出演している。

映画はギリシャに住む12才の姉と5才の弟が、母からドイツに住んでいると聴き、父に会いに行く、現代ギリシャを旅するロードムービーであるが、ファンタジー映画ではない。

姉弟はギリシャの駅でドイツ行きの電車に乗ろうとするが、未遂に終わる。勇気を振り絞って再度、電車に乗り込むが途中で、
車掌に見つかり、伯父に連れ戻される。伯父の話では、父は母が語った妄想らしく父は実在しない。
ギリシャの街に珍しく雪が降り、街の行き交う人々の時間が止まっているのに、姉弟だけが、伯父の話を否定するように雪の中を走り去り再び旅に出る。

姉弟は「旅芸人の記録」の旅芸人一行の中のオレステスに出会い、旅の途中の旅芸人一座とも出会うのだが、時代が変わって「羊飼いのゴルフォ」の芝居は場所を貸してくれる人も少なく、誰も観てくれない。旅の途中、姉はトラックの運転手に強姦されてしまうが、それでも旅費を稼ごうと売春しようとする。姉はオレステスに憧れて恋をするがオレステスが同性愛者だった。国境のように見える川を渡ると霧の中にある一本の樹が立っている。姉弟が一本の樹へ駆けていき霧の中に溶け込んでいく。

姉弟が黄泉の世界に行ったのかは定かでないが、この映画はファンタジー映画ではなく、アンゲロプロス監督が作った現代のギリシャ神話なのだろう。それでも自分には「旅芸人の記録」で観たギリシャの曇り空よりは「霧の中の風景」のギリシャの空が少し明るく見えた。
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