ろ

霧の中の風景のろのレビュー・感想・評価

霧の中の風景(1988年製作の映画)
4.0

「もしも私が叫んだとて、天使たちの誰が聴くだろう」

これは相当こたえました。
直接的な暴力シーンはないけれど、絶えず不安が襲ってくるこの感じ。鑑賞後も心がざわついています。

監督は「この映画は自分の子どものために作ったおとぎ話だ」と仰っていました。たしかにアンデルセンやグリムの童話には哀しみや教訓がつきもの。けれど、これはおとぎ話よりももっと現実的。


いつも列車の前で立ちすくみ、見送るしかなかった姉弟。
ある日、二人はついにドイツ行きの列車に乗り込む。
「お父さんに会いたい」その一心で。

「お父さん、遠い旅路です。夢の中では近いのに、と弟は言います」
姉と弟はそれぞれ、まだ見ぬ父への手紙を心の中でしたためる。
希望を抱いている、決して届かないと知りながら。


海から引き上げられた巨大な右手は、くるくると回って定まらず、未来を差しているはずの人差し指がない。

車に引きずられて死にそうな馬。
それを見て泣きだす弟。
さっきまで式を抜け出していた花嫁は、大勢に囲まれて結婚式を終えた。
死にかけの馬と結婚式を見て、初めは ”死”と”人生の華やかさ”の対比なのかと思った。でも、嫌がる花嫁を見ると、結婚式とは一つの死なのかもしれないなと考えてしまう。

衣装を売ることに決めた劇団。
もうすぐ徴兵の青年。
この物語には何かを諦めた大人たちが出てくる。
それを遠くから見つめ、幼い二人は歩き続ける。


「始めに混沌があった…それから光がきた…」
霧の中から二人が見たものとは。


劇中でかかるこの曲、心を捉えてかき乱して、頭から離れません。
好きな映画音楽ベストテンに入りました。
ろ