みらん

レインメーカーのみらんのレビュー・感想・評価

レインメーカー(1997年製作の映画)
2.0
●不正だらけの歪んだ正義感●

厳しい社会を生き抜くためには、
競争に勝たなければならない。

そして、競争に勝つためには、時として
不正を働かなければならない場合もある。

ところで、
相手が不正を働いたことを理由に
こちらも不正を働いた場合、
当人に正義を語る資格は有るだろうか。

私は、無いと考える。
しかし、本作の主人公は逆である。

したがって、
本作を視聴していて、個人的には
違和感を覚えずにはいられなかった。

主人公サイドは、
事務所に盗聴器を仕掛けられ、
証言録取も妨害された。

一方で、主人公サイドも
相手側の会社に潜り込み、
有利となる情報を漁っただけでなく、
その後、身分を偽って
重要な証言を持つ人物に接触し、
"会社から盗まれた"書類を
過去の案件に基づき、証拠に用いている。

また、メインストーリーから外れるが、
DVを受けている女性依頼人とともに
彼女の自宅を訪れた際、
正当防衛とはいえ、彼女の夫に
致命傷を負わせてしまうが、
あろうことか、依頼人の指示に従って
自分だけ現場から逃走してしまう。
その結果、依頼人だけが逮捕される。

その後、検察側から
"女性依頼人の"正当防衛が認められて、
晴れて無罪となったが、
主人公が、弁護士としての
自身の取った行動に反省する描写はなく、
単に保身に走っただけという印象を受ける。

依頼人と自分を守るためとはいえ、
相手に危害を加えた上で現場から逃走し、
その事実を隠匿することは不正ではないのか。

そして、物語のラストでは、
相手側の弁護士を引き合いに出した上で、

"全ての弁護士が、その気はなくとも、
少なくとも一度は超えてはいけない一線を
越えてしまい、それを繰り返す内に、線は
永久に消えてしまう"

と、語るシーンがあり、
弁護士の倫理観を危惧しているが、
彼自身、超えてはいけない一線を
越えたわけだから、間違っても
他人を批判する資格などあるわけがない。

不正を正当化してはならないが、
彼の場合、むしろ、
超えてはいけない一線を越えたからこそ、
依頼人を救い、愛する人を守ることが
できたのではないのか。

以上を踏まえれば、己の不正を棚に上げ、
安直な正義感を盾にして弁護士の倫理観を
否定しようとする、主人公の態度こそが、
無礼千万この上ないわけである。

不正を働いた以上、正義を語る資格はない。
しかし、依頼人を守るために全力を尽くす。
それがプロの姿勢であり、その意味では、
私には相手側の弁護士の方が立派に思えた。

そもそも、弁護士に限らず、
社会に生きる者の多くが、
日々の生活を送る中で良心の呵責に
苛まれる事態に直面しながらも、
己の信念に従って必死に生きている。

本作の主人公に限らず、
己にとって都合の良い正義を振りかざして
他人を攻撃する卑怯な人間は、
現実世界においても少なからず存在する。
そして、彼らのその安直な正義感が、
自殺者を出す等の社会問題となっている。

映画の中だけでなく、
現実世界もまた、世知辛い世の中である。


■備考■
本作では、最終的に相手側が敗訴し、
懲罰的損害賠償の支払いが命じられた後、
会社は破産法の適用を受けることとなる。

その後の描写はないが、現実的に考えると
会社から大量の失業者が出るだけでなく、
保険業界とその関連業界が混乱に陥り、
経済が悪化することが予想される。

その結果、
真面目に働いてきた罪の無い人達も
巻き添えを喰らう可能性があるわけだが、
本作はその点には全く触れようとしない。

そもそも、本作に見られるような
保険会社がのさばっているとすれば、
(現実世界でものさばっていると思うが)
それはもはや、一企業の問題ではなく、
アメリカ国家の保険制度の問題である。

したがって、
安易に一企業に責任を負わせること自体、
問題の本質的な解決になるとは思えない。

本作を視聴したアメリカ人が
自国の保険制度についてどう考えるか、
気になるところである。
みらん

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