COZY922

007/カジノ・ロワイヤルのCOZY922のレビュー・感想・評価

007/カジノ・ロワイヤル(2006年製作の映画)
4.4
スパイと聞いてイメージするのは一時の感情や状況に流されないプロフェッショナル、妥協を嫌う生き様、卓越した身体能力など精神的肉体的に極めて強靭な人種。スパイと言えども人間なので感情も失敗もあるはず、だけども常に涼やかなポーカーフェイスを保ち、身のこなしも憎らしいほどにスマート。そんなスパイのイメージをいい意味で裏切るのがダニエルクレイグ演ずる本作のボンドだ。

とても人間臭くて とても汗臭くて とても男臭い。狼狽えたり動揺したり、大胆不敵と言えば聞こえはいいけれどどう見ても荒削りでストラテジックでなかったりもする。スタイリッシュなスパイ道具ではなく文字通り自らの体を張って事に当たる。画面から息使いや匂いが伝わってくるような泥臭いボンドが最高に魅力的に見えた。

一連の出来事を経て傷を負ったはずの彼が心の傷に自ら厚いかさぶたを着せて冷酷非情なスパイになる過程には納得感を覚え、これでこそ完成された諜報部員だと感じながらも、一方で「完成してほしくない、人間ボンドでいてほしい」と寂しいような気持ちになる自分がいた。それは多分、終盤 ”裏切り女”、と無表情で吐き捨てた言葉の裏に そう言わざるを得なかったボンドの悲痛な思いを感じ、サイボーグや概念の存在ではない 自分と同じ生身の人間が織り成すドラマを観ていたいと感じたからだと思う。

観終えた今から思えば、人間ドラマとしてのウエットな部分が詰め込まれていることを予想させないクールでハイセンスなモノクロのオープニングや、トランプ,ルーレットをモチーフにしたタイトルバックも最初の印象以上のものとなって記憶に残る。目と目で表情を読み合う駆け引きを際立たせるテキサス・ホールデムスタイルのポーカーも良かった。

お恥ずかしながら007はこれまでまともに観たことがなく本作が初めての鑑賞だった。私の場合、超ビギナーゆえに、こうあるべきというボンド像を持っていなかったのがハマった理由の1つかもしれない。

かっこよさの中に暴走しまくる少年のような危うさがある、マダガスカルでのチェイス、空港での爆破阻止、ベネチアでの攻防などアクションシーンも感情や心理がうまく乗っていたと思う。そして最後に決め台詞。もう〜、かっこ良過ぎでしょ。ダニエルボンドから入ってしまった私は、過去作や将来の他のボンドを受け入れることができるんだろうか・・?そんな不安を抱かせた 007鑑賞デビューだった。