けーはち

007/カジノ・ロワイヤルのけーはちのレビュー・感想・評価

007/カジノ・ロワイヤル(2006年製作の映画)
3.8
ダニエル・クレイグ主演の新シリーズ第1作。新米スパイ007がテロリストの資金源を断つべくカジノで大勝負を挑む!

★高級スーツと時計を纏い、世界中で車と女をマッチョに乗りこなし、各種秘密道具を駆使して華麗に大立ち回りを演じる、超人的スパイ──現代的には、いろんな意味で大分厳しくなってきたシリーズを復興するべく原点回帰の《カジノ・ロワイヤル》で幕を開けるクレイグ=ボンドは、派手な荒唐無稽なストーリーに、秘密道具抜きの血まみれリアル体当たりハード・アクション路線に、クライマックスでの大規模破壊アトラクションでバランスを取っていく。冒頭、建物を駆け下りるパルクールや殺意に満ちた血なまぐさい格闘シーンから息を飲んだ。

★往年の華やかな紳士のオーラは鳴りを潜め、ビシッと高級スーツを着こなしながらも、どこか牙を剥いた猛獣のような攻撃的意思と、マッチョなセクシーさを煌かせる、その反面、精神的脆さと人間臭さを強調した新米スパイを演じ、数多くのアンチを黙らせた、ダニエル・クレイグは文句なくカッコ良い。

★ヒロインのヴェスパー(エヴァ・グリーン)はインテリな会計屋だが、ドレスを着るとセクシーに大変身。ボンドと心理分析ごっこをして彼を言い負かすような、タフな女で「マッチョに都合よく抱かれる女じゃないわよ」とアピールしてくる。そんな彼女の心が折れる殺しのシーンと、彼女が「手に着いた血が取れない」とうずくまって泣くシャワー・ルームで寄り添って心を溶かすのは名場面。「相談に乗って、上にも乗る」という、恋の典型的パターンそのものである(下品で失礼)が、彼女が本当にその心を開くことはついになかったのである。彼女の存在は、次作『慰めの報酬』でもボンドの心に大きく影を落とすのであった。

★新世代のジェームズ・ボンドとして文句のない一本。ところが、次次作『スカイフォール』では突如、「ボンドはスパイとして年を取りすぎた」みたいな世代交代ネタになるのだ。うーむ……。