いののん

大阪物語のいののんのレビュー・感想・評価

大阪物語(1999年製作の映画)
5.0
どうもどうもどうも
よう来てくれはりましたな
頼みもせんのに


開店したスナックが入っているビルの屋上で、若菜(池脇千鶴)がお父ちゃんのりゅう介(沢田研二)につぶやいたところから、私の感情は決壊した。大阪に暮らしたこともなければ、訪れたこともほとんどない私ですらそうなんだから、大阪で生まれた女やさかい、だったら、どないなことになるんやろか。



私は自分のこれまでのなかで、中学生の私がいちばん嫌い。特に14歳。でも、よう考えたら(いや、よう考えんでも)、それ以外にも、あの時の私は嫌いって、いっぱいあるな。うん、いっぱいある。だけど、もう、そんな自分を赦したってもええやないかいって、思った。どんな自分も赦したったらええ。自分のことばっかじゃなくて。みんなみんな。みんなみんな。私にとっては、そういう映画だった。市井に生ゐる人々の、そこで生ゐる人々の、そして、自分の生ゐる場所の、物語。



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観た後、時間が経つにつれ、田中裕子と沢田研二の、佇まいの在り方をおもうと、むせび泣きたたいような気持ちになる。ただそこにいるだけのようにみえるのに。圧倒的な存在感。心のなかに、残り続ける。
映画「LOVELESS」に対する答えは、20年前の、この映画にある。


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田中裕子の演技は圧巻。歩き方ひとつでも物語る。最初に妊婦さんに会った時の、歩き方にまず唸る。全部すごい。沢田研二の色気。池脇千鶴の真っ直ぐな目。見つめる瞳。世界の全部を見ていて、全部を見ているような瞳。弟君のさり気ない気遣い。とおるの切なさ。終盤で、病院まで連れてってくれた人が町田康かな?違うかな?真心ブラザーズの「ENDLESS SUMMER NUDE」も良かった。
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