otomisan

アメリのotomisanのレビュー・感想・評価

アメリ(2001年製作の映画)
4.0
 いきなりモンマルトルの羽虫と老コレールの悲劇が紹介されて、アメリが受胎する前のフランスはこんな有様でした、と言いたげだ。
 もっとも、当のアメリも[たぶん誤診に満ちてるだろうが医者には違いない冷淡な父]×[父がもう一人いる?神経過敏ぎみだが教師そのものな母]との産物である。父親に心臓病と診立てられて、あわや全生活をひん曲がったふた親の二元一体的集権下に留置されるかと思いきや、男子受胎祈願を済ませて出た「神の家」の直ぐ外、半メートル差で母親が急逝。その衝撃で半壊状態の父親はアメリ支配も全壊うわの空という。
 アメリも、生まれたのはいいけれど、世界にどれだけ人がいるか想像できるだろうか?という感じな空白の10年+さらに生活のため父親のもとを離れて、都会での隣りは何をする人ぞ、な5年の後、元妃ダイアナの死がアメリの運命に蹴りを入れてくる。

 ダイアナの死と引き換えで得た子どものタイムカプセルに少年王ツタンカーメンの夢の跡の感動だそうだ。バカバカしいようだが空白の15年を半壊親父相手ばかりではなるほどというべきか。
 ナマで男のはじまりのザマを体験せずに生きて来て、此度の初発掘で覚えるのはその男の子はいま?という好奇心だろう。理屈ではこれは何十年後の今だが、アメリ的にはその相手は同時に10歳なのか8歳なのか、比較し合いながら共に成長を遂げる相手も無いまま、自身の内にも未だそんな年齢な部分が未成熟で宿っているアメリには、いい齢のおじさんに自分と同年配な8つ9つの男の子が縺れ合っているわけだ。そしてそれはリモート引き渡し成功の後あっさり裏切られた格好だろうが、おじさんの運命の転轍を果たした事は間違いない。

 おじさんがもう小さな男の子ではない事を現認し、アメリもその年齢を卒業できたかは分からないが、自分が一連の事を通じて、疲れも覚えずいい人になってゆく実感は新たなミッションに誘ってゆくだろう。ただ、このアメリのミッションも人慣れしないせいか、ピタゴラ装置的プロセスが笑いを取りすぎる。その魔法の仕込みから成果へとひもといてゆく、これだけでアメリのからくり魔女ぶりとして面白さに眼を眩まされてしまいそうでいかん。
 自分は誰のために何ができるだろう。おじさんで味をしめて勝手にクライアントを店のジョセフ&ジョルジェット、アパート差配のマドレーヌ、八百屋のリュシアン、自分のポンコツ親父と広げる一方で怪しいニノだけは歯が立たない。

 軍師でガラスの老人レイモンに言わせれば惹かれているのなら当たって砕けな、と柄にもない。が、アメリにとってもニノにとっても、互いの存在はもう叶わないと思った兄と妹であって、同時に失われた十代を我が身に引き寄せる事でもある。
 この複雑なミッションをおっかなびっくりで取り掛かるがその成就は明らかにされない。ちいさな原付でトロトロ駆け出す二人がどこかに行き着くのか、途中でアメリの嫌いなよそ見運転で果てるのか。妹と兄に留まるのか、十代を駆け抜けていまの二人までたどり着くのか、どれであれ、ちっとも楽しみではない。
 むしろ、この遅れてきた季節が終わる事を惜しむような気分だ。ポンコツ親父を旅立たせて、リュシアンに華を持たせて、マドレーヌの愛を往生させて、J&Jだけは勝手にさせても、アメリとニノにはどこかその小魔女と怪しい男のままでいて欲しい。それが叶うなら結婚しようと子供ができようとすきにすればいいだろう。