Tラモーン

スケアクロウのTラモーンのレビュー・感想・評価

スケアクロウ(1973年製作の映画)
3.7
『ヒート』に続きアル・パチーノを観たくなったので鑑賞。


6年の刑期を終えて出所したばかりの喧嘩っ早く短気な大男のマックス(ジーン・ハックマン)と、5年の船旅を終え妻に会いに行こうとする小柄で人懐っこく愉快な男ライオン(アル・パチーノ)。荒野のヒッチハイクで打ち解けた2人は、マックスの提案でピッツバーグで洗車業を始めようと旅路を共にする。目的地のピッツバーグの前に、ライオンのまだ見ぬ5歳の子どもと妻に会うため、2人はデトロイトを目指す。


うーん、めちゃくちゃアメリカン・ニューシネマ。淡々としていてパッと見は少し陽気なのにどことなく退廃的で物悲しい雰囲気が漂い続ける。

冒頭、イライラしながら有刺鉄線を潜るマックスとニコニコしながら声をかけるライオン。荒野のハイウェイに不貞腐れた大男と愛想のいい小男。そしてジーン・ハックマンとアル・パチーノのクレジットが出たかと思いきや、スッと出てくるタイトル。
かーっこいい!

"人は殴るより笑わせることだ"

短気で喧嘩ばかりのマックスに振り回されながらカカシの話を説くライオン。

前半は粗暴で孤独なマックスが何故かライオンに惹かれながら心をほぐしていく展開。

"最後のマッチをくれたしな。俺を笑わせた"

すったもんだの末、1ヶ月ブチ込まれることになった刑務農園では逆ギレしライオンを無視していたマックスだが、マックスをボコった奴を「俺の相棒を!」とボコボコに。結局男の友情なんてそんなもんで、喧嘩してたってあっさり仲直りできちゃうのがいいところだったりする。

しかし、ここからライオンの心がおかしくなり始める。
5年前見捨てたも同然の妻子との再会が近づくにつれおどけた調子がなりを潜め始めるライオン(飲みたい、と立ち寄ったバーであわや一触即発となったマックスのストリップは名場面だが)。
理髪店に行き、身なりを整え子どもへいよいよ公衆電話から妻へ電話を入れる。
覚悟はしていたのかもしれない。でもどこか甘い期待をしてしまうのが男の性。妻からの悲痛な叫びはライオンの期待していたものとは正反対だった。そして一番気にかけていた子どものこと。妻はとにかくライオンが許せなかったのだろう。彼の心をバラバラに砕くには充分の破壊力を持った怨みのこもった嘘。傍らで遊ぶライオンにそっくりな男の子の健気な視線がキツい。

ここからのアル・パチーノの演技の凄まじさときたら。
街の子どもたちと戯れながらもどこか虚な表情を見せたかと思えば、突如決壊してしまった心のダムを見事に表現する。

そんなライオンを必死で救おうとするマックス。洗車屋開業のために貯めた資金だろうとライオンのためなら厭わない。

"誰を信じたらいいんだ"

ピッツバーグまでの往復切符と、必死で隠した靴の中の秘密が泣かせる。

久しぶりにアメリカン・ニューシネマと言われる作品を観たけど、単調に見せながら終盤に息苦しくなるんだよな。つらいけど不思議と癖になるな。
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