こなつ

少年と自転車のこなつのレビュー・感想・評価

少年と自転車(2011年製作の映画)
4.0
2011年ベルギー・フランス・イタリア合作、第64回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ受賞作。

ダルデンヌ兄弟が監督の作品2作目の鑑賞だったが、今作は先に観た「息子のまなざし」ほど暗くもなく、重くもない。

やはりダルデンヌ監督は社会問題を扱う監督なので、この作品も親の育児放棄と少年の犯罪をテーマに社会的弱者に焦点が当てられている。

2003年に日本で開催された少年犯罪のシンポジウムで監督が女性弁護士から聞いた育児放棄された子供の話に着想を得て、この映画を制作したという点でも話題になった。施設の屋根に乗って捨てた父親を待ち続けた挙句、自分を守るため犯罪に手を染めた日本の少年の話が基になっている。

児童相談所に預けられたまま12歳になろうとしていた少年シリル(トマス・ドレ)は、いつか父親を見つけて一緒に暮らしたいと願っていた。ある日、彼は美容院を営むサマンサ(セシル・ドゥ・フランス)と出会い、ごく自然に彼女と共に週末を過ごすようになる。そしてようやくシリルの父親(ジェレミー・レニエ)を捜し出したのだが 、、、、

父親が買ってくれた自転車は、彼にとっては愛の象徴だった。父親に捨てられたことによって心を閉ざした少年シリルの姿があまりにも痛々しい。どれほど父親を求め、親の愛を求めているかが、彼の眼差しや行動から切実に伝わり観ていて苦しくなる。そんなシリルがサマンサに出会ったことによって、傷ついた心を少しずつ開いて成長していく過程が丁寧に描かれていく。

最初は何気ない親切から始まった偶然の出会いだったが、親に捨てられ傷ついた少年の痛ましさに、本気で向き合い、母のような愛で包もうとする女性をセシル・ドゥ・フランスが好演。なんて魅力的な女優かとすっかり魅せられてしまった。また少年シリルを演じたトマス・ドレは、愛に飢えた物寂しい眼差しで素晴らしい演技力を観せた。本当の父親なのに、自分が生きることだけに必死で子供を捨て、会いに来た息子を冷たく突き放すクズ男をジェレミー・レニエが演じている。

赤の他人の女性が、父親を求めて荒れ狂う少年を決して見捨てなかった。だからこそ、自分にとって大切な人は誰かということに気付いていく少年の未来に一抹の光を感じ、シリルが幸せな道を生きて欲しいと心から願った。
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