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その男、凶暴につきの教授のレビュー・感想・評価

その男、凶暴につき(1989年製作の映画)
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このフィルマークスでレビューを書いて1000本近くになり。様々な映画を観てきて、やはり北野武監督のデビュー作である本作の完成度にとにかく圧倒された。

シンプルに面白い。

冒頭の浮浪者をリンチで殺害する塾帰りの少年たち。その光景を見ていた上で、そのうちのひとりに暴行を加えて自首を強要するというシーンから。
エリック・サティに乗せて単なる出勤の為に歩いているだけ、しかし船に「バカヤロー!」と空き缶を投げつける小学生たち、という本作の舞台がどんな世界なのか、というのを巧みに表現していく「物語」の語り口のスマートさ。

暴力の発動もさることながら、その暴力に対してそれが本作の中では「日常」であることを示す細かな演出に唸る。

一方で、暴力の権化であるビートたけし演じる我妻刑事と精神を病んだ妹(川上麻衣子)との交流。
刑事という職業としての暴力から、やがて、暴力そのものに発展して、互いを誘発し合う清弘(白竜)との関係性など、リアルさとカオスさを内包していて、本作がデビュー作であることが恐ろしくなるほど、映画監督としての資質の確かさに驚く。

バイオレンス描写だけでなく、脚本や、演出、演技の確かさや音楽の使い方など、映画という表現の豊かさと味わい深いシーンの連続、アイデアの豊富さなど、とにかく立派なエンターテイメントとして、アートとして一級品。
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