takato

その男、凶暴につきのtakatoのレビュー・感想・評価

その男、凶暴につき(1989年製作の映画)
4.3
ここには空っぽで何もない。

意味も価値も感情も。正義も悪の線引きも。

空っぽな世界に相応しい虚ろな人間は、空っぽのまま生きたり死んだりする。

その境なんて大した意味はない。どうせ世界は空っぽなのだ。

世界から消えたのは、その人間の質量のみ。魂や意味なんてとっくに消え去った。

ただただ世界は無関心に、無意味に進行する。お前が死んだ後も。

 世界の北野。その一作目にして、町山さんが言う通り、そのエッセンスがほとんどすでに出揃っている作品。偶然的にデビューしてしまった北野武。しかし、すっかり才能の枯渇した感があった日本映画界に突然変異的に誕生してしまった鬼才。彼の初期作品こそ、最後の世界に誇る日本映画かもしれない。

 こんな映画見たことねぇ…という作品でありながら、よく考えるとその影響を受けた作家たちが連想されるというトンデモナイ存在。しっかりと筋がある感じじゃなく酷く自由な感じに進むストーリー、バイオレンスの中に入ってくる不思議なコメディータッチ、主人公の最期の人間性を象徴するようなヒロイン、バイオレンスの嫌な感じ、そしてその空虚さ。この時点で作家性を確立してるのが凄い。

 話の筋としてはよくある感じなんだけど、撮り方で異様な感じになってるのはヌーベルバーグを思わせるが、それの芸術っぽいのとは全然違うものがある。現代日本に相応しい、あけすけで、派手さも、重要さも、社会的な意味とかも空白。のっぺりとした郊外住宅地のような、空虚感満ち満ちている。
takato

takato