シズヲ

その男、凶暴につきのシズヲのネタバレレビュー・内容・結末

その男、凶暴につき(1989年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

最初から最後まで暴力的。引きの構図や長回しの映像で見せつけられる「町並み」の異様な身近さ、冷えきった演出で容赦なく描かれる暴力の生々しさが尋常じゃない。展開の抑揚なんて殆ど無いのに終始引き込まれる緊張感に満ちている。時おり見せる「笑い」のバランスも秀逸で、何気ないギャグをふいに挟み込ませてくるのが独特の薄気味悪さを作り上げている。

主人公の人物像も何処か決定的にぶち壊れていて、妹への感情とふてぶてしいユーモアで辛うじて人間性を繋ぎ止めているようにさえ見えてくる。超人的なヒーローでも何でも無いからこそ主人公の暴力性が酷く歪に映っているのが凄まじい。暴力的な捜査や後輩とのバディ関係とかそれっぽかったけど『L.A.大捜査線/狼たちの街』が元ネタらしいのは納得。

アクションの不格好さも印象的。中盤の全く様になっていない麻薬常習犯追跡劇なんかは主人公と後輩の掛け合いも含めて滑稽にさえ感じる。それでいて子供の前で刑事の頭がかち割られるシーンなど暴力はとことん残酷に叩き付けてくるのが強烈。終盤の銃撃戦も異様に乾いていて、物静かな空間で繰り広げられる冷徹なバイオレンスには兎に角戦く他ない。

(たけし映画自体に言えるけど)全編を通して過度な説明を廃して描写だけで物語っているのも面白い。そういった演出が冷えきったムードを効果的に作り出しているし、ラストの虚無感も凶悪なほどに冴え渡らせている。あれだけ暴力に身を任せたのに結局は次が現れるだけという虚しさが堪らない。菊地が「代役」に身を落とすまでの経緯や心情など肝心な描写すら吹っ飛ばしてる感は否めないものの、余韻も含めてセンスが振り切れてるから結局唸るしかない。
シズヲ

シズヲ