タケオ

その男、凶暴につきのタケオのレビュー・感想・評価

その男、凶暴につき(1989年製作の映画)
4.2
ホームレスを集団でリンチした少年の1人が、清々しい表情を浮かべながら豪華な自宅へ帰ってくる。すると、タイミングを見計らったかのように1人の刑事が家に押し入り、彼へ殴る蹴るの暴行を加えた挙句、警察署への出頭を強要する•••。

鼻持ちならない金持ちのクソガキがフルボッコにされるなんて、なんと痛快な始まり方だろうか。だがそれと同時に、本作の主人公 我妻(北野武)が常識や倫理観なんてものとは無縁の危険な男だということも十二分に伝わってくる。

毒っ気の効いたシュールな笑いと、強烈ながらも乾いたバイオレンス描写。『ソナチネ』や『HANA-BI』などの作品で世界的な成功を収め、「世界のキタノ」として確固たる地位を築いた北野武の初監督作品となる本作は、正にその全ての'原点'だ。

映画は前半こそブラック•コメディ調の刑事ドラマが展開されていくが、麻薬組織と警察の癒着が明るみになるにつれ徐々にシリアスさと暴力性を強めていき、最終的には職を追われた我妻と麻薬組織の殺し屋 清弘の壮絶な殺し合いへと発展していく。

我妻と清弘は、ともに'血と暴力の世界'にしか生きることのできないアウトローであり、故に組織からはつまはじきものにされている、いわばコインの裏表のような存在だ。精神障害を抱えた我妻の妹 灯の存在だけが、2人の間に明確な一線を引いている。だからこそ、我妻が妹という存在を自ら断ち切る時、この物語自体は残酷なまでの虚無感とともに終わりを迎えることとなる。

暴力を行使する者は、いずれ暴力に淘汰される。しかし、この因果応報と暴力の連鎖はいつまでも終わりを迎えることはない。エリック•サティ『グノシエンヌ第1番』の物悲しい旋律が、そんな無情な現実を引き立てる•••何度鑑賞しても味わい深い作品だ。
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