けんたろう

チャップリンの黄金狂時代のけんたろうのレビュー・感想・評価

チャップリンの黄金狂時代(1925年製作の映画)
5.0
【2019年11月9日の記】
苦しいはずなのに楽しいおはなし。

靴食って、他人に食われそうになって、陽キャにコケにされて、それでも淡々と生きるチャーリーが可笑しくて愛らしい。苦痛をコメディに見せてしまうチャップリンは凄いな。小屋でのシーンなんてゲラゲラ笑っちゃったもん。最後の船上のシーンも堪んない。あれだけで飯7兆杯はいける。

いやー面白いな。チャップリン、今のところ『独裁者』『黄金狂時代』『街の灯』の順に好きだ。これからモダンタイムスとかライムライトとか色々観ていこうと思います(^^)


【令和四年十一月十日の記】
奇跡的だが、必然的。其んなタイミングの聯続に依りて生まるゝ、何んとも小気味の好い滑稽劇。緻密なる時間の計算に依りて、其の勘違ひやしくじりは極めて軽妙。関係の無い人物と人物とが符号する絶妙なるタイミングは、兎に角可笑しい。
又た、表現の面白さも垣間見ゆ。デイゾルブに依りて表現せられしチヤツプリンの鳥などは、観てゐて大へん面白し。
飢ゑも危機も疲労も苦労も哀しみも。兎角、人間の感情も境遇も総べてがコミカルである。本当に楽しい。

たゞまあ、チヤツプリンが最高たる所以は其れらのみではない。本作にも矢張り、無様に実直に生くる男の、痛切なる孤独が有る。惨めで愚かで、誰れからも相手にせられぬ、弱者、浮浪者、負け犬の哀しみ。何処にも彼れの悲痛を解する者は居ない。女に惚れても、たゞいゝやうに使はるゝ始末。チヤツプリンが描くのは何時も敗者である。
嗚呼、カウリスマキを思ひ起こさずにはゐられない。若しやカウリスマキは、チヤツプリンの精神を最もよく継いでゐる映画作家なんではなからうか。

兎にも角にも、切なさと可笑しさとが同居せし小粋なるコメデイ。不運も不幸も何も彼もを笑ひ飛ばす、強靭なるコメデイ。其の哀しき道化の結末には──、嗚呼、何んだか私しも救はれたやうな気が致した。


①2019年11月9日 DVD
②令和四年十一月十日 角川シネマ有楽町