ずどこんちょ

おくりびとのずどこんちょのレビュー・感想・評価

おくりびと(2008年製作の映画)
4.1
公開当時アカデミー賞外国語映画賞受賞で日本が沸き、劇場へ見に行きました。
あれから13年が経ち、自分自身の見方も変わって再度鑑賞。
涙が止まりませんでした。クスッと笑えるシーンと心に沁みるシーンのバランスが絶妙です。あの頃はそれほど深くは響かなかったけど、年が経って見方が変わることってありますよね。

死者を弔い、故人への想いを巡らせる。葬儀にはそんなゆったりした時間が流れてほしいと感じます。大切な人だったからこそ、別れの時間を大切に過ごしたい。生前の姿に限りなく近づいた姿で最期の時を共有したいものです。そうすることで、その人が亡くなったことを素直に正面から受け止めることができると思うから。

作品の根底に流れる死というテーマは、そのまま「旅立ち」という意味も含んでいます。死は旅立ち、そう連想させる表現がいくつか見られました。
社長は新聞広告に誤植でしたが納棺師の仕事を「旅立ちのお手伝い」と表現し、
冬鳥が越冬するために空へ飛び立ちます。
主人公が故郷へ帰ったのも楽団が突然解散となって人生の転機が訪れたことがきっかけです。
実は火葬場の職員だった鶴の湯の常連客は火葬という仕事を通して、死が新たな門をくぐることだと表現しました。そしてこの仕事が、新たな旅を見送る門番だとも。
死という人類普遍のテーマに対して、日本人なりの死生観で死とはどういうものなのかを映し出します。

旅立つ故人に対して生前の姿に近付けて弔う主人公。その姿に直面した時、遺族たちの反応も三者三様です。
髪を赤く染めた不良娘の遺体を前に「娘はこんな姿じゃない」と否定する家族、
生前は喧嘩ばかりだったけど突然死が訪れて受け入れきれない中で、かつての安らかな姿に戻った故人を見てその死を受け止めた家族。
主人公らが5分遅れただけでクレームを言っていた故人の夫が、納棺後、妻の生気を取り戻したような姿を見て「今までで一番綺麗だった」と感謝するシーンが特に印象的でした。妻の死を受け入れきれずに憂いている中で、最期の姿に感激する切ない感情の移り変わりが伝わったからです。

主人公がずっと抱えてきた離婚して行方不明となっていた父親への確執もしっかりと決着させています。
石文の風習が良いアクセントになっていました。ポロッと手から溢れて来た時には、事務員の百合子さんが言っていたように親の心は確かに時が流れても変わらなかったのだということが、言葉を一切使わずに伝わってきて心が震えました。

山崎努さんは相変わらず味わい深く引き込まれる演技でしたね。