安堵霊タラコフスキー

素晴らしき放浪者の安堵霊タラコフスキーのレビュー・感想・評価

素晴らしき放浪者(1932年製作の映画)
4.9
ホン・サンスがオールタイムベストの一本として挙げていた名作だけど、彼の作風的におそらく最も影響を受けた作品の一つだろう。

ホン・サンスの代名詞とも言える対話する人物を1カットに収めた構図や遠方からのズームショットといった映像の原型に思えるカットが多数見られるが、それはホン・サンス以上にシンプルながら深みと映像の妙が感じられるものとなっていて素晴らしく、特に都会で放浪者が溺れる一連は何度見ても感嘆の溜息が出る。

一部余計と思えるカットがあったり音が酷い場面も少しあったけど、それを考慮してもホン・サンスが愛するのもよくわかるくらい十分すぎる程に洗練されていて、ジャン・ヴィゴのアタラント号より前の1932年に作られたとはとても思えない傑出ぶりはまさにルノワール初期の代表作と呼ぶに相応しい。

さすがに放浪者が太々しすぎて腹が立ちそうになる場面も多かったが、それが富裕層を皮肉る一助にもなってるし、加えて礼儀正しい紳士風に描くと毛むくじゃらのチャップリンみたくなるから差別化の為にも致し方が無かったか。

それにそんな小憎たらしい男の話でも面白く見られたのは演出も撮り方も優れていた証拠だし、あまりに優雅で卓越したラストを見たらそんな小憎たらしさもどうでもよくなってしまったから凄い。

駿河屋で2500円の中古BDを見つけて購入したけど、案の定その値段が安すぎると思えるくらいの傑作だった。