純粋な「運動」のみで映画を撮ろうと試みた傑作。
何処からともなくやってきて、何処かへ去っていくという、登場人物の過去や未来を描く必要がない西部劇方式を採用することで、物語に縛られずにひたすら美しい運動だけを撮ることに成功している。
波の水しぶき、吹きぬける風、走る船員たちetc… すべてのショットが凄まじいまでのクオリティ。それがバーゲンセールみたいにどんどん出てくる。
特に、真珠のネックレスがこぼれ落ちる瞬間のスローモーション、どうやって撮ったかわからない船内のゆれ、胴上げの浮遊感が素晴らしい。落下、ゆれ、浮揚という運動そのものの美しさがこれらのシーンには凝縮されている。
バルネット作品をちゃんと観たのははじめてだったが、大げさでなく本作はムルナウやドライヤーの域な気がする。個人的に帽子箱を持った少女がピンと来なくて、こんな傑作を今まで観てなかったことを強く後悔した。