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未来を生きる君たちへのmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

未来を生きる君たちへ(2010年製作の映画)
3.8
アフリカの難民キャンプとデンマークを舞台に、二つの家族(父と子)が直面する暴力と報復を描いた社会派ヒューマンドラマ。
監督はスサンネ・ビア。
原題:(璉) Hævnen(意味は「復讐」)、
 (英) In a Better World (2010)

【二つの家族】
①アフリカの難民キャンプで働くスウェーデン人医師アントン(ミカエル・パーシュブラント)の家族
・妻マリアン(トリーヌ・ディルホム):医師。夫の不倫が原因で家を出て別居している。
・息子エリアス( マルクス・リゴード):学校でいじめの標的になっている。
・エリアスの弟(モーテントーケ・ラース・ビャーケ) 

②デンマークにあるエリアスのクラスにイギリスから転校してきたクリスチャン(ウィリアム・ヨンク・ユエルス・ニルセン)の家族
・母:癌で亡くなったばかり。
・父クラウス(ウルリク・トムセン):妻の希望に従って延命治療をやめたが、命奪ったことで、クリスチャンから恨まれ、父子関係は冷えきっている。

【暴力と報復】
①スーダンの難民キャンプに、妊婦の腹を切り裂くことで知られる悪魔のような男「ビッグマン」が脚の感染症にかかりやって来る。
アントンは、医師として治療をするが、殺された女性を口汚く蔑む言葉を発したビッグマンに怒りを爆発させる。そして医療テントから放り出したことで、ビッグマンは現地住民から集団リンチを受ける。
②デンマークでは、エリアスのいじめに巻き込まれたクリスチャンが、いじめグループのリーダーであるソフスに激しい暴行を加えて大怪我を負わせたうえに、ナイフを手に脅かす。
③自分の子どもモーテンが他の子と公園で喧嘩をしたため、(帰国中の)アントンが割って入ると、相手の子の父親、自動車整備工のラース( キム・ボドゥニア)がやって来てむやみに(乱暴に)アントンを殴るが、アントンは抵抗しない。
④クリスチャンは、花火の火薬で爆弾を作り、ラースの車を爆破する計画を立て、エリアスを誘う。
エリアスはスーダンにいる父に相談しようとするが…。

「やり返さなかったらみんなに殴られる。
殴られてやり返したらきりがない。戦争はそうやって始まる。
最初が大切なんだ。パパには分からない。どの学校もおなじさ。これでバカにされない」

「生きてる者と死者の間には見えない"幕"がある。愛する人や親しい人を失った時にその幕は取り去られる。死を見るんだ。とてもはっきりと。でもほんの一瞬だ。その後幕は元の場所に戻り、私たちは生きていく。以前と変わらずに」

とても、真摯な映画。
時代劇や西部劇のように正義のヒーローが悪者をやっつけてハッピー・エンドとはいかないのが、現実世界。
やられたらやり返すのか、やり返さないか。ケース・バイ・ケースなのか。その場合の線引きは。
確かに世界から紛争が失くならないのは復讐(報復)の連鎖のせいでもあるだろうが、人は理屈では分かっても、生物(動物)としての本能である感情(怒り)をコントロールし他人を許す(赦す)ことは簡単ではない。
永遠に議論が続き、争いも続くだろう。
なお、「復讐」または「報復」という言葉を入れた邦題にして欲しかった。
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