チッコーネ

捜査官Xのチッコーネのレビュー・感想・評価

捜査官X(2011年製作の映画)
5.0
香港のピーター・チャン監督が撮り上げた、美事なネオ時代劇。
シンプルに『武侠』と題したところからも、堂々たる自信が伺える。
中国・雲南省で行われたというロケ撮影は、清朝時代の同地を幻視させる美しさ。
現代人の美意識を通して整えられた美術も素晴らしいほか、庶民を演じた役者たちは一様に、満州風俗の辮髪姿を見せる。
ドニー・イェンをはじめ、ブルース・リー登場以前から人気スターだったというジミー・ウォング、そして80年代に女性アクション・スターとして名を馳せたカラ・ウァイが起用されており、格闘場面は圧巻の迫力。
VFXやスピード・コントロールの精度も高いが、彼らが示すカンフーの型が美しく、説得力は充分である。
現代劇で観たドニーは二重瞼がバタ臭いおっさんで、あまり格好良いとは思えなかったのだが、本作では見惚れることしきり……、その魅力がしっかり腑に落ちた。
金城武演じるキャラクターのために練られた脚本も、良い出来。
特に前半は彼が悪人に観えてくるほどサスペンスフルな展開、また東洋医学ベースのプロファイリングが神秘的で、単調な「所詮アクション映画」への埋没回避に貢献している。
少年のような顔立ちが清廉な印象を与えるタン・ウェイも、大変美しい。
エンタメでありながら、中華圏文化の膨大な蓄積が詰め込まれた映画らしい映画……、そして習政権以前の経済活況が背後に感じられる大作だった。