Yoshishun

震える舌のYoshishunのレビュー・感想・評価

震える舌(1980年製作の映画)
4.0
監督・野村芳太郎の実娘の体験をモチーフにした医療ドラマ。突然、破傷風に懸かってしまった少女とその両親の闘病生活を描く。ホラー風演出が多くみられ、当時まだ10歳にも満たない子役の鬼気迫る演技もあり、トラウマ映画としても名高い作品である。

本作は、破傷風という当時極めて死亡率の高かった感染症の恐怖を描くためか、医療ドラマというよりもホラーの色合いが強い。ショッキングな内容とは対照的なクラシック音楽、全体的に暗めなセットとそこから浮かび上がってくる真っ赤な血、泣き叫び流血をも伴う難病を患う幼児など、誰がみても正気ではないことがわかる。これを80年代日本を舞台に描き、昔の作品の雰囲気も相まって唯一無二な世界観となっている。

渡瀬恒彦と十朱幸代が演じる両親や、娘を看病する医療従事者たちなど、多くの強烈なキャラクターも魅力。娘を四六時中見守りながらも自身の感染をも疑ってしまう両親、娘を安心させるとはいえ常に何処かヘラヘラしている担当女医。ホラー風の演出との相性も良く、終始不穏な空気が漂う。

その一方、それまで破傷風の恐怖を監督なりのリアリティーを以て演出していただけに、安心感溢れるラストがあまりにも拍子抜けだった。とはいったものの、慌てて自販機にジュースを買いに行く父の姿は感涙ものだった。また、中盤で繰り返されるお見舞いの下りが蛇足でカットしてもよかったかも。

80年代邦画のなかでも、極めて異質、独特な世界観を魅せる作品だが、トラウマを植え付けるほどの演出が優れていることは確か。今の時代ではコンプライアンス的にアウト間違いなし、もう2度と見ることができないであろう、そういった類いのカルト作である。
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