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アキラ AKIRAのせーじのレビュー・感想・評価

アキラ AKIRA(1988年製作の映画)
4.4
303本目。これからしばらく3~4本ごとに、「シリーズものではないアニメーション映画」を観ていこうと思い、まずはこの作品を観ることにしてみました。もちろん初見、原作も読んでいません。(鑑賞後に原作と本作との結末の違いなどを調べています)




…なるほど。凄まじい力を持った作品でした。

■AKIRA「が」"追ったモノ"とAKIRA「を」"追った者達"とは
まずやっぱり思うのが、この作品の「異質さ」でしょう。今でこそこういったビジュアルは珍しくないですが、当時としては天変地異レベルの大事件だったのではないかと容易に想像が出来ますよね。その証拠に、公開当時に放映されていたアニメや公開されていたアニメーション映画、そして当時人気だったコミック作品を調べていくと、如何に本作がそれらに比べて尖っていたかがよくわかるのではないかなと思うのです。本編のセリフを借りるなら「ピーキー過ぎてお前にゃ(理解が)無理だよ」と、作品全体が突き放している様にも感じられます。
自分自身がこの作品を知ったのは公開されてから数年後、中学生になってからなのですが、週刊少年ジャンプと同じ判型のコミックなんて観たことが無かったですし、なんだかおどろおどろしい、グロテスクなビジュアルだったので敬遠をしてしまったのですよね。ガマンして読んでいたら、もしかしたら人生が変わっていたかもしれないですが、よくわからないおっかないマンガとして記憶に刻まれたのは、ハッキリと覚えています。
この圧倒的なビジュアルと世界観は、実はルーツを辿ることができるのだということを鑑賞後に知りました。それは『2001年宇宙の旅』からだったり、フランスの漫画家であるメビウス氏の作品をはじめとする『バンド・デシネ』からだったり、そして昭和の学生運動だったりという様々な要素が本作に上乗せされているのだそうです。また逆に、本作を起点にフォロワーとして影響を受けているコミック作品、アニメーション作品も枚挙にいとまが無いというのも、観れば一目瞭然なようになっています。『ドラゴンボール』(ベジータ編~フリーザ編)『新世紀エヴァンゲリオン』あたりは、とてもわかり易いフォロワーだと言えるのではないでしょうか。この作品を中心に様々な作品と繋がりがあり、それは今現在もなお影響を与えつつある…というのは、なんだかブラックホール的でもあり、この作品が描いた小宇宙の誕生のようにも思えてきてしまいますよね。
AKIRAという作品そのものが、ポップカルチャーにおいてのAKIRAであり鉄雄になったのだと言っても言い過ぎではないのかもしれません。

■1988年という時代と「東京」
もう一つ重要な要素として「1988年(1980年代)」に「未来の東京」を舞台として制作されたということそのものに注目していくべきなのではないだろうかと思いました。1988年という年は、世間的にはバブル景気が始まった直後であり、青函トンネルや瀬戸大橋、東京ドームなどが竣工したという年だということもあり、どこか浮足立った雰囲気だったことを自分は覚えています。また、それよりも重要な出来事として、実質的に「昭和最後の年」となってしまったということもありましたし、米ソの対立も新しい局面を迎え、国内的にも世界的にもここから先の新たな時代がどうなっていくのだろうかという期待と不安が入り混じった時代だったのではないかなと思うのです。
さらに、そもそも「東京」という街は、近世以降何度もスクラップ&ビルドを繰り返してきた街でもあります。原作者の大友克洋氏はこの作品に、これまでの東京と新たな東京の姿を描いたと以下のインタビューで述べていました。

"漫画の『AKIRA』は、自分の中では、世界観として「昭和の自分の記録」といいますか。戦争があって、敗戦をして。政治や国際的ないろいろな動きがあり、安保反対運動があり、そして東京オリンピックがあり、万博があり。
僕にとって東京というのは昭和のイメージがものすごく大きいんですよね。
登場人物たちはみんな若者にしました。なにもわからない、ただ単に暴走して、つまんない世界にいる人間たちを主人公にして、東京の中のいろんな政治や、大きな秘密の中に触れながら、どうしようもない若者たちが少しは成長していくという話を作ったんです"
(中略)
"東京好きですよ。すごく好きなんです。
東京は、常に変化している。都市は生きものだから、それはしょうがないんじゃないですか。だから人々の生き方やスタイルが少しずつ変わっていくんじゃないでしょうか。
新しい東京を、新しい人たちが創っていくべきだと思います"
(NHKスペシャル シリーズ「東京リボーン」HPより)

人が、人の力で新たな技術や能力を生み出し、それがやがて人だけでは手にあまり、遂には人智を超えてしまうような領域にまで影響を及ぼすところにまで「力」を解き放ってしまうのではないだろうかという、ある種の"畏れと期待"が入り混じったかのような心情がこの作品には織り込まれているのではないだろうか。と、自分は鑑賞後に調べながら強く感じました。そしてその発信源は常に若い世代から、そして東京という街から巻き起こるのではないだろうか、とこの作品は描こうとしているのだと思います。
それが本当にそうなのかはともかくとして、少なくともこの作品があの時代あのタイミングでしか描けなかったモノであるというのは、間違いはないことだと思います。そして、図らずもこの作品で描かれたことがその通りになっている部分もあるという事実に触れていくと、なんとも言えない気持ちになってしまいますよね。
…まぁでも、2022年現在の視点で観てしまうと、自分としてはこの作品は、人間と言うものを過大評価し過ぎなんじゃないかな、とも思ってしまったりもするのですけどね。

※※

ということで、本作は現在に繋がる日本のコミックやアニメの隆盛の基となった地殻変動を起こしたと言っても言い過ぎではない作品であることは間違いないと思います。ただ、本作を観たことで更に遡って観なければならない作品が増えてしまい、正直困ってしまいました。
まぁぼちぼち。
※なお、グロい描写がそれなりにあるので、鑑賞にはご注意ください。
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