カルダモン

アキラ AKIRAのカルダモンのレビュー・感想・評価

アキラ AKIRA(1988年製作の映画)
5.0
音を観るアニメーション映画

【過去鑑賞記録】

大友克洋の新プロジェクトも発表されて、夢のまた夢だった原作準拠のAKIRAが本当に実現してしまうかもしれない。
立川シネマシティの極音上映や、目黒シネマの35㎜一本立て上映など、俄かにAKIRAイヤー最後の盛り上がりを見せている2019年12月現在。小学3年生からの付き合いになるような映画なので思い入れもひとしおなのですが、現状どの上映にも行けていない。渋谷パルコのギャラリーも結局行けずじまいで悔しい限り。という訳で吉祥寺バウスシアター爆音上映で体験した鑑賞録(加筆修正)を悔し紛れに載せておこうと思いました。


オープニングの一撃目で血が沸いた。
聴きたかった音が鳴った瞬間だった。
爆音仕様のAKIRAは念願のひとつで、今回の爆音上映では最も観なければならない一本だった。昨年末のオールナイトに行けなかった身としては念願の再上映。念が強すぎたせいか、4番という整理番号を引き、向かったバウスシアター。

音楽という概念を芸能山城組にぶち込まれた8歳の体験は20年を超えるいま現在も尾を引いており、この音楽に触れていなかったら恐らく物の見方感じ方が変わっていたのではないかと思うほど自分の中に深い根を下ろしている。故に爆音上映という体験は必須だった。

バウスシアターは当然ながら満員御礼。立ち見や座布団席も出た。大画面で、暗闇の中で、不特定多数の人と共有する。という劇場ではあたりまえのことが、なぜかいつもよりとても温かく感じる。空間と爆音。AKIRAを観る上でこれ以上のシチュエーションは無いと思った。

『現存する最後の35mm版フィルムで』という粋な計らいに感涙するも、スクリーンに映し出されるノイズにまみれたフィルム映像は、経年ダメージの中でなまめかしく魅力的な色彩を放っていた。より細部や、普段は目に留めていなかったカットが新鮮に思えたり、まるで別物のような風合いに痺れる。

「ネオ東京上空の風」、「ケイと金田」、「クラウンとの戦い」、、、大友と山城組のイマジネーションの洪水を爆音で浴びるたびに、この両者の邂逅がいかに奇跡的だったかを思い知る。AKIRAは山城組の音楽でなければ、おそらく今のような評価を受けてはいない。また、この世界観でなければこの音楽を活かしきることはできかったかも知れない。AKIRAを通じてジェゴグやガムランサウンドに取り憑かれてしまった私は小学生時分にAKIRAのサントラを聴きまくるというまったく可愛げのない音楽趣味でした。



ところで35mm版フィルムと、僕が知っているリマスター前のバージョンでは僅かにSEやBGMが異なっていた。例えば鉄雄が赤いマントを着ける場面のBGMは山城組の「鉄雄」のメインテーマなのだが、同じ楽曲内で使われているパートがかなり違っている。細かい変更点はそれだけで最高の肴になり、何度だってお代わり可能だ。

しかし本当によく動くアニメで感心してしまう。背景で動く人物ひとりひとりの細やかさに、あらためて感心。これも大画面ならではのことなのかもしれない。ネオ東京の夜景に流れるテールライトの残像。転倒したバイクから投げ出された身体は、重力や体の重さ、路面の固さまでも感じるようで。背景の描き込み、汚しの度合いについては背景画集が欲しいくらいにずっと見てられる。

原作は原作で、連載中からのファンでございますので、もちろん言いたいことは山ほどあります。なので敢えて比較はナシで。
アニメ版は物語的にもキャラクター的にも歪だし不完全。しかしそれを超える世界観の描写という一点において革新的だったことは間違いないでしょうね。因みにこの映画が公開された当時、原作漫画はまだ連載中であり、ラストも不確定でした。

まさか本当に2020東京オリンピックが決まるとはね。数年前、東京に決まったタイミングで真っ先に思ったのは「AKIRAじゃん!」でした。

東京オリンピック開催迄212日
(中止だ中止!)


2021.06.20追記
先日AJICOというバンドのライブを観に行ったのですが、開演前にかかっていたBGMが『AKIRA』の冒頭、春木屋の店内BGMだと即座に耳が反応した。ようやく「密林のポリフォニー ~イトゥリ森ピグミーの音楽」であることが判明。特定できてスッキリ。こんな出会い方もあるんだな。