カイル

愛を読むひとのカイルのレビュー・感想・評価

愛を読むひと(2008年製作の映画)
3.7
考えだしたら止まらないという映画でした。

少年のひと夏の体験・・・彼にとってその体験は彼の人生を変えるものだった。
マイケルは、彼しか知り得なかった情報を裁判官に伝えることでハンナの刑を軽くすることができたかもしれなかったが葛藤の末それをしなかった。ハンナはナチの大量虐殺に関わっていた過去をどう思っていたのか?マイケルは釈放前の彼女に会いに行ったときいったい彼女のどんな言葉を期待していたのか?それがはっきり語られることはないので観る人の解釈にゆだねるしかありません。

ここからは私の勝手な解釈です。ネタバレ!注意です。
ハンナは非識字者であることを隠くすために無期懲役になることを選びました。文盲であることがそれほどまでに恥ずべきことなのかという疑問に思い当たります。人間は言葉が作り出した世界像の上で生きている。言葉の介在なしに生きることが出来ないと言っても過言ではない。だから読み書きが出来ないことで彼女の世界を限られたものにしていた。服役中に読み書きの練習を始めますがそれは想像以上に困難を極めるものだったでしょう。やる気になればもっと若い時にできたはずなのになぜそれをしてこなかったのか。それは文盲であることで現実を直視することから無意識に逃げていたからではないか。そうしなければとても生きてはいけなかった。ハンナの世界像が徐々に書き換えられていくと同時にそれは自分の罪に向き合うことでもあった。本当にハンナが恥じていたこととは多くの人を殺めてしまったことであり最後に死を選んだのはそういう意味だと感じました。
原作を読んだらまた解釈が変わるかもしれません。心にいつまでも残る映画でした。
カイル

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