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エターナル・サンシャインのninjiroのレビュー・感想・評価

エターナル・サンシャイン(2004年製作の映画)
4.5
それがやって来るきっかけが感知できれば或いは何かが変わったりするんだろうか。抗いようのない感情が、あれよあれよと見廻す隙もなく建て付けを完了して真夜中見知らぬ地図に釘付けで、真昼間には翼竜の舞うような野蛮な空を見上げている。記憶の奥に、いつかそんな風に一瞬に忙しく、後ろや前や、上空を見上げたことがあったような気がする。きっとそれは都度一生分の筋肉痛のような重みを与えてくれて、かといって何ら明確な教訓を残すこともなく、虹色の全部が混じり合ったぼんやりした色のシャッターを無理矢理に抉じ開けて一向に続く悪い夢に飛び込んで行くような明け方。
泥塗れになってしまった、そう感じた時にはもう取り返しがつかないものだろうか。半ば諦めているから何の藻掻きもない、それは歳を重ねるという事の一つの利点なのかも知れない。誰にでもそんな風にして笑うのかな、何か話さなきゃと思う、酔っ払った末の判断力の低下のせいにしたくない、自分でちゃんと分かってる、僕は相も変わらず見も知らない人にまでいい人に見られようと必死だ。変わらない、何も変わりやしないけど、ちょっとだけ煙草を吸いに外へ行っても構わない?どんなに取り返しのつかない傷つけあいをした後でも、もしあの無垢な笑顔でもう一度僕を見つめてくれたなら、きっと何を怒っていたのかを忘れるほど君のことを愛おしく思っただろう。でもそれは僕自身の抱える欠点を埋め合わせ出来るほどの愛ではないかも知れない。
Eternal sunshine of the spotless mind.
消したいけど忘れたくない記憶。‪愛が伝えられる事は意外と少ない。それが純粋であればある程に、他に伝えることが何もないから。だからいつだって自分で自分がとても退屈に思える。送ってきたこれまでの人生が空白だったように、自分の空白が君に共有されるのが怖い。目深に被った帽子、覆われた薄い耳。オレンジ色のその髪が僕の海を照らす。‬
‪気付かなければ良かった、冗談めかしてぞんざいに扱われていたこと。気付かれなければ良かった、うんざりして一人になりたいと思ったこと。自由に指定した過去に戻ってやり直せたなら、そう思ったことは一度や二度ではない。でもその先飽き飽きするほど一緒にいたら、きっとまたあの時と同じように繰り返すんだろう、知れば知るほど好きになる、どこかで聞いたことがあるそんな言葉は嘘っぱちの綺麗事だなんて苦笑いしながら、もしあの笑顔にまた会えるなら。地図に記すことが出来るのは過去しかない。どんなに奥深くに迷い込んでもいい、未来はいつも空白、夢ならば、もう二度と覚めないで。‬
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