フライ

タレンタイム〜優しい歌のフライのレビュー・感想・評価

タレンタイム〜優しい歌(2009年製作の映画)
4.1
全ての人にある壁や誤解など、色々な問題を提起し考えさせらる内容でありながら、優しい気持ちにさせてくれる素敵な青春映画。
知人にゴリ押しされて鑑賞したが、納得の素晴らしさに、何とも言えない心地いい苦しさを覚えた。

マレーシアにある高校では、7周年を迎えるタレンタイムと呼ばれる音楽やダンス、芸に秀でた生徒を教師が選考し、教師はクジ引きで、生徒7人、教師7人で決勝の発表会の場で催される事に。生徒7人には予行練習を含め生徒が、バイクで送迎する決まりも。
ムルーは3姉妹の長女でイギリス系の父、マレー系の母の元、中国人のメイドのいる裕福な家庭で暮らし、美しい歌声とピアノ演奏で決勝に選考される。発想も多様性に飛んだ快活な女性。
マヘシュは、耳が聞こえず会話は出来ないが、優しく真面目な性格を買われムルーの送迎担当になる。インド系の両親の元に生まれ、父を亡くし遺族年金で厳格な母親とユーモアな姉と生活。優しい叔父にも支えられ厳格な姉に育てられる甥のマヘシュを心配するのだが…
ハフィズは、軽快なギターと素晴らしい歌声、自作の歌詞も認められ決勝へ。母親は脳腫瘍で入院。直る見込みも無く生活も大変なのだが、成績は優秀で先生からも認められる逸材。しかし友人カーホウから疑われ心を痛めていた。ムルーには好意も。
カーホウは、中国の伝統楽器、二胡の美しい音色と演奏で決勝へ。中華系の父は常に成績トップを望み、時にはそれが原因で暴力も。ハフィズの成績に疑問を持ち嫉妬で関係も悪くなるのだが。ムルーには恋心も。
そんな4人と家族が軋轢や偏見、差別など色々な問題に苦悩し、友情や恋を通し青春を謳歌して行く。

監督のヤスミン・アフマドは若くしてこの世を去るも、とても期待され天才とも言われていた人物だったと聞いていたが、鑑賞後納得。同時にマレーシアと言う多民族、多宗教、多言語国家で産まれたからこそ開花したのだろとも思えた。

マレーシアと言う多民族国家ならではの、身近にある色々な壁や軋轢を、大人になろうとする純粋な高校生の恋や友情を通して見せるストーリーは、これ迄見てきた青春映画とは全く違う残酷さや苦しさが感じられ胸が痛むと同時に、素敵にも思えた。
色々なシーンで叙情的に流れるクラッシックのピアノの音色は世界観ともピッタリで、更にムルーやハフィズの歌と歌詞、ムルーの読む詩が、とても素敵で心理描写を秀逸に表現していて心に刺さり気持ちよかった。何より本作で提起されている問題は、日本や自分の身近にも有るだけに、色々な意味で奥深さも感じた。要所要所の表現も独特で良かったが、個人的には、眼鏡をかけたユーモア溢れる生徒に、人を結びつけ作品を盛り上げるカンフル剤的な面白さを感じ楽しめた。

これ迄学んできたマレーシアならではの長い歴史的苦しみや問題をある程度知っているからこそ尚更考えさせられたが、民族や宗教、言語の違いはあれど、時間をかけ新しい世代が壁を取り払ってくれる希望を本作の中には見れただけにとても微笑ましく鑑賞出来た。

青春映画とは言え、余りにも色々な要素を含んだ内容なだけに、日本や欧米の甘い青春映画を想像して鑑賞すると梯子を外されるので注意。ただ色々な問題や作品の世界観を楽しめると、苦しみ葛藤するピュアな4人に胸が締め付けられる心地良さも感じられるので興味がある人は是非。
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