りりー

タレンタイム〜優しい歌のりりーのレビュー・感想・評価

タレンタイム〜優しい歌(2009年製作の映画)
4.5
祈りのような映画だ。誰かを愛すること、許すこと、受け入れること、その困難さと尊さ、すべてがこのフィルムにある。
多民族国家のマレーシアでは、当たり前のように異なる民族が、宗教が、文化が共存している。その在り方はなんと美しいことだろう。しかしそれは、一人一人の勇気と思いやりによってかろうじて保たれるもので、薄氷の上を歩くように危うく脆いものでもあるということが、本作を観るとよくわかる。

陽気に踊るムルーの家族のカットに、ハフィズの母親が嘔吐するカットを繋ぐ箇所や、マヘシュの叔父の結婚を祝う隣で葬式が行われていた、という挿話が象徴するように、喜びと悲しみは常に隣り合わせだ。生きることと死ぬことも、愛することと失うことも。わたしたちは、その間をふらふらと行き来することしかできない。だから人は祈るのだろうか。喜びや愛情を慈しむために。悲しみや憎しみを誰かに向けることがないように。
恋という未知の感情を自分の言葉で表そうとする(名文!)マヘシュ、母親の喪失と気丈に向き合おうとするハフィズ、ギターと二胡が寄り添って響く"I GO"。悲しみからは逃れられない。それでも、誰かが手をとって、抱き締めてくれたなら、受け入れられるのかもしれない。

タレンタイムが終幕し、灯っていた明かりが消え、映画も終わりを迎えたあと。舞台から消えた二人の静かな会話を、壇上で抱き合った二人の次の言葉を想った。希望は、未来は、きっとそこにあるから。
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