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タレンタイム〜優しい歌のこーたのレビュー・感想・評価

タレンタイム〜優しい歌(2009年製作の映画)
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あらゆる言語の飛び交うさまが、この国の多様性を端的に顕している。
英語、マレー語、中国語、それに手話まで。ひとりの話し手が、はなしているその途中で、急に言語をかえたりする。その切り替えは実に軽やかで、なんの違和感もない。
ことばが多様であるということは、その背景には、さまざまな人種や宗教が横たわっている、ということを物語る。
そのさまざまなものたちのあいだには、必然的に軋轢や葛藤がある。
それらの衝突が、悲劇を生む。
この国では、死がずっと身近にある。
死者を弔う儀式が美しい。文化はまるで異なっているのに、それらはどこか似通っている。
ひょっとすると音楽というものは、死を悼む表現として生まれたのが、その起こりではなかったか。
言葉では表せない感情を、音にのせて伝える。
その音が、此岸と彼岸の境界を、軽やかに乗り越えていく。
音(おん)で感情を表現する、という行為それ自体は、洋の東西を問わない。
東洋には古来より和歌や漢詩があり、西洋には歌劇(ミュージカル)があった。
その両者のいいところを、この映画は実に巧みに取りこんでいる。
あらゆる言語、あらゆる人種、あらゆる宗教を、タレンタイムが包みこむ。
あの小さな体育館で、それらすべてが、融合する。
死者と生者の想いさえ、ひとつになる。
想いを伝えるのは、音楽だ。
音が体育館を包みこむ。
その音は、スクリーンの境界も、軽やかに乗り越えていく。
音が映画館も包みこむ。
その音楽が、わたしを内側から充していく。