すずり

酔いどれ天使のすずりのレビュー・感想・評価

酔いどれ天使(1948年製作の映画)
4.5
【概略】
戦後間もない闇市の近くで、医業を営む真田。
ぶっきら棒ではあるが患者の事を常に気にかける職人気質な彼は、周りの人々から確かな信頼を得ていた。

そんな彼の元に、闇市の顔役であるヤクザの松永が手の負傷の治療のために訪れるが、真田は松永の肺が結核に蝕まれていることに気がつく。

検査をした方がいいとぶっきら棒に言い放つ真田に松永は暴力的に反抗し帰宅してしまうが、そんな彼を放って置けない真田は闇市へと自ら赴くこととなるが...

・・・

【講評】
本作は三船敏郎と黒澤監督が初タッグを組んだ作品として非常に有名ですね。
三船敏郎が松永として若いヤクザの役を演じていますが、ギラギラとした眼差しから感じられる彼の風格には既にスターの素質が宿っています。

また本作は戦後の闇市やクラブといった風俗周りを広いセットを用いて鮮やかに表現していますが、このセットが余りにも出来が良い為に、鑑賞当初は本当の闇市で撮影したのかと思ってしまうほどでした。
いったいどうやってこれほど広大な物を設営したのか気になります。

そして、ヤクザ相手でも全く引かずに立ち向かう人望の厚い医師の真田と、結核に内心では深く怯えている孤独なヤクザの松永との対比がこの作品の一本の軸となっています。
他にも、結核にしっかりと向き合って治療する女学生と松永との比較もありました。

松永は所謂ヤクザな訳ですが、孤独で臆病な青年としての印象がとかく強く、観客は彼に1番感情移入しやすいです。
誰だって病気は怖いですからね。
そんな、私たちにとって身近に感じられる松永が次第に引き際を失っていく末に哀れな最期を遂げるシーンを描くことで、黒澤監督は観客達に大きなインパクトを残すと共に、ヤクザを始めとする裏家業全般を批判したかったように思えます。

それにしても、志村喬が演じる真田は無骨ながらも実に人情に溢れた理想的な医師像でした。
常に患者のことを考えずには居られない、
う〜ん、私も是非あんな医者になりたいものです。
さすがに患者にものは投げませんが。


【総括】
戦後間もない闇市を舞台に、病魔に侵される若いヤクザと、人情に厚い医師との交流を描いたヒューマンドラマ。
名作です。
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