薔薇

酔いどれ天使の薔薇のレビュー・感想・評価

酔いどれ天使(1948年製作の映画)
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黒澤明監督。
反骨漢の貧乏医者・真田が結核を患ったヤクザ松永の治療をする。

とにかく三船敏郎。黒澤明が初めて三船敏郎と組んだ作品。ここまで鮮烈な存在感をデビュー作で見せていたとは。肩で風を切り歩く彼の姿は、NOヤクザなこの映画のテーマに反するくらいかっこよくなってしまっている。死に際の流れの演技の生々しさは恐ろしいくらい素晴らしい。最期の上がっていくカットの物悲しさ。

そんな松永に相対する、演じるもう1人の主人公・真田。三船が”動”なら志村喬が”静”。ヤクザのくだらなさを本質的に知っている大人として真田と衝突するのが良い。『酔いどれ天使』というタイトルは真田に向けてか。

黒澤が時代劇を撮り始める前の生々しさが映像に溢れている。何度も登場する”沼”。後の『生きる』にも登場し、ついに埋められるのを見ると黒澤にとっての戦後観が沼に詰まっているのかもしれない。

木下恵介の『カルメン故郷に帰る』も皮肉に描きながら主人公の情熱のようなものだけは賞賛するといった印象の映画だったが、今作の三船敏郎にも似た印象を受けた。戦後の巨匠達の映画に滲み出ているものがとんでもなく面白い。
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