松井の天井直撃ホームラン

洲崎パラダイス 赤信号の松井の天井直撃ホームランのレビュー・感想・評価

洲崎パラダイス 赤信号(1956年製作の映画)
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☆☆☆☆★


小津安二郎の『浮草』
成瀬巳喜男の『浮雲』
吉田喜重の『秋津温泉』
これらと並び、日本映画を代表する日本四大《腐れ縁》映画の名作。

橋の手前と橋の向こう
この僅かな距離の違いにより、、、

【自由を満喫出来るか】それとも
【見えない鎖に縛られてしまうのか】…との違いに苦しめられてしまう。


新珠三千代の元廓街出身経験者として、手練手管で男を誘うチャキチャキ感の素晴らしさ。

三橋達也の新珠が居ないと何にもしない、どうしようもないクズなヒモ男。

芦川いづみの真面目な性格。男の観客から見ると、1日の終わりに帰宅すると待っていてくれる奥さんにしたい安心感は満点なのだが。だからこそ、どうしようもないヒモ男から見たら、どこかに物足りなさを感じる辺り。

女のズルさを知りながら、ついつい男としてそんな女の裏の顔を覗こうとする為。何度も失敗しつつも、少しばかりの豪放磊落的で前向きなところを見せてしまう河津清三郎のお茶目なところ等々。

この作品の見所は数多いのですが。何よりも素晴らしいのが、自身が抱えた過去の辛さを胸の奥に潜めつつ。新珠と三橋の2人の関係の危うさを心配しながら、幼い子供達を育てている轟夕起子の奮闘振り。
作品中には、ほんのひと時の幸せを感じながら。その後に巻き起こる悲劇に翻弄されてしまう様が何と言っても涙を誘う。

金八先生の言葉じゃないけれど。【人】という文字には2つの棒線が支え合いながら存在する。
《ノ》は《ヽ》の支えがあるから倒れる事はない。
とは言え、《ヽ》もまた《ノ》が有るからこそ倒れる事がないのもまた事実。
お互いが、男女それぞれの【生活】であり【人生】を支え合い、背負いながら生きている。
それを実感させてくれるのがこの作品最大の魅力的なところだと思っている。

何度観ても尽きる事がなく、観る度に新たなる発見をさせて貰える名作です。

初見 日時・劇場名不明

2022年3月27日 シネマブルースタジオ




今日の観客数は何と10名!
これまでここには数多く通っているけれど、こんなに満員御礼状態だったのは初めてで。関係者じゃないのに、つい嬉しくなってしまった。
いつの日かここが本当の満員御礼になりますように。