マサキシンペイ

ゆれるのマサキシンペイのレビュー・感想・評価

ゆれる(2006年製作の映画)
4.6
一般的に言えば、オダギリジョー演じる弟の、繊細な心理描写が主となるような映画だと思うが、容姿の良さや稼ぎがかけ離れ、あまりにパワーバランスが偏っている兄弟という設定が、個人的な話であるが、僕自身の兄弟関係と似ている部分があり、残念ながら僕は、この映画程ではないにしても劣っている側の人間なので、むしろ香川照之演じる兄に深く感情移入してしまう映画だった。この兄の「ゆれる」感情が、痛いほどリアルに描かれている。

男前で稼ぎもしっかりしている兄弟を持つことは、たとえどれほど自分が恵まれていなくとも誇りに思える。しかしその誇らしさは同時に強烈な妬みだ。兄弟の絆は、相手の成功を一緒になって心から喜ぶと共に、同じ分だけ嫉妬も募らせるという矛盾を内包する。兄弟である限りこの関係から逃れることができない。とくに兄弟間の格差が広がるとその矛盾は大きくなる。兄弟が成功しているのだから自分にだってチャンスはあったはずなのに自分だけが惨めに生きることを強いられている。同じ親から生まれ、同じ環境で育ったのに、「なんでお前と俺はこんなに違うの?」
このセリフはネガティブな意味での兄弟の絆をゴリゴリと抉り出してくる。

女にすこぶるモテる弟が、自分が好意を寄せる共通の知り合いの女性を、自宅まで車で送り届けた。
少なくとも弟に対して、その女性の心が「ゆれる」のは明白だ。なぜなら、一緒にいるのが誰が見ても憧れるような自慢の弟だからだ。
映画の序盤で弟は兄に内緒でその女性と彼女の自宅で肉体関係を持つのだが、たとえ弟が一切ボロを出さなくても兄にはその秘密が手に取るようにわかったのだろう。この兄弟の絆の前で状況証拠など必要ない。
自分には敵いっこないほどに魅力的な弟が彼女を自宅へ送り届けたからだ。
女性にモテず土地柄田舎で出会いもない自分にとって、かけがえのない唯一の愛しの女性の心は、都会からヒョコッと帰ってきて、向こうでも簡単に女を口説き落とせる弟の虜となっていく。当たり前だ、俺の弟はカッコ良いんだから。

僕にとってこの映画は、香川照之演じる兄の、この強烈に矛盾した感情が狂気へと落ちていく様を入念に描写しきった傑作と言えるものだった。