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ゆれるのellieのネタバレレビュー・内容・結末

ゆれる(2006年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

途中からずっと、「揺れ」続けながら観た。
目をつむれば今もあの吊り橋の光景が浮かぶ。
家業を継いで地道に働く地味な兄と、都会に出て好きな仕事をする派手な弟。だが1人の女性をめぐり、事態は急展開する。いい人とばかり思っていた兄の隠された嫉妬と狂気を垣間見、次第に自分をぐらつかせ恐怖感を募らせる弟の心の動きが実に繊細に緻密に描写されてゆく。

冒頭近く、葬式の後の会食で、酒をこぼした親戚のお膳を拭く兄の靴下がほつれているのを、オダギリ演じる弟が無表情で眺めるシーンがある。
西川監督の心理描写の凄さはこういうところだ。何気なさを装いながら、人は些細な人とのずれや隔たりを知らず積み重ね、仲たがいをし、不信感の果てに憎悪や殺意を抱いてゆくこともある。そのリアルさ。

たった1人の肉親を信じきれず、留置場の窓越しに、弟がしびれを切らして兄を罵倒するシーン。裁判で、何がおかしいのかうっすらと笑う兄。兄弟の立場がはじめと逆転し、このストーリーの軸が一体何なのか再び観ている方は激しく「ゆれる」。そのネガとポジが完全に入れ替わるさまは見事としかいいようがない。

最後、道のあちら側にいる兄に向かい、こちら側の弟が「家に帰ろう」と叫ぶ言葉が、揺れ続けた吊り橋と真っ暗なトンネルを抜けた一筋の光を思わせる、文句なしの傑作。
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