こたつむり

ゆれるのこたつむりのレビュー・感想・評価

ゆれる(2006年製作の映画)
3.9
♪ ゆらゆらゆらら 揺れてる
  僕は綱を渡る 目を閉じて

これが西川美和監督の真骨頂なのですね。
前作『蛇イチゴ』の筆致は合わなかったのですが、今回はスッと物語に入ることが出来ました。どちらとも筆致は不安定なのですけどね。バランスは本作のほうが秀逸でした。

しかも、エグい物語ですからね。
肉親だからこそ許せない感情をぐつぐつと煮詰め、ほんの少しの香辛料で見事なサスペンスを作り出しているのです。師匠である是枝監督も真っ青な“鋭さ”ですよ。

ただ、正直なところ、共感度ゼロの物語。
オダギリジョーさん演じる主人公はチャラすぎるし(チャラ男を演じさせたときの安定感は半端なし)香川照之さんの朴訥さに潜む暴力性には頷けないし…と物語から一歩引いてしまう人物造形なのです。

でも。それでも。
胸倉を掴まれてグイグイと引き回す手腕は見事な限り。女性だからか(と書くと差別的かもしれませんが)容赦がないのですよね…。特に真木よう子さんの役柄は地に足がついていて本当に“イヤ”でした。

だから、木村祐一さんの配役(検事)に違和感を抱いたのも“清涼剤の意味合い”だったのかも…なんて思ってしまう次第。どこまで計算して配置したのか、ご本人に伺ってみたいですね。

あと、本作には世間を騒がせた新井浩文さんとピエール瀧さんが出演していますが…やっぱりこの二人の存在感は素晴らしいものがあります。それだけに法に触れた(特に他者を傷つける行為)のは悲しくなりました。

まあ、そんなわけで。
ゆらゆらと揺れる吊り橋から落ちたのは人間なのか、それとも想いなのか。真実は常に目の前に横たわっている見事な逸品。ミステリ好きにもオススメできる作品でした。

最後に余談として。
本作のロケ地は山梨県の富士吉田市でしたが、昨年の家族旅行でそちら方面に赴いていたので、なんとなく風景に親近感を抱きました。嗚呼、囲炉裏で食べた串焼き…美味しかったなあ。
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