こたつむり

ヘアスプレーのこたつむりのレビュー・感想・評価

ヘアスプレー(2007年製作の映画)
3.9
ジョン・トラボルタの“女優魂”が炸裂したミュージカル。

とても楽しい作品でした。
ちょっと(?)ポッチャリの女の子が、歌って踊ってハッチャける物語。しかも、根底に流れるのは「ラララ~♪人種や体型の違いなんて気にしない~♪」なんて“前向きな姿勢”。

だから、正直なところ、最初は引き気味でした。物事全て「光あれば闇もあり」と考えている僕にとっては、負の要素が全くない“真っすぐ”な思いは眩しすぎるのです。

ただ、ミュージカルを楽しむ極意は“積極性”。
登場人物たちの心情は全て“メロディ”の中ですからね。それを楽しむためには、自分から噛み砕く意思が肝要なわけで。自分から身を乗り出せば…なるほど。本作もググッと面白くなりました。思わず身体が動くくらいにノリノリですよ。

…でも、ちょっと待ってください。
何かが。そう。何かが心に引っ掛かるのです。
確かに素敵な物語でした。「ああ、楽しかった」と思ったのは事実なのです。しかし、それだけを書いて感想を終えたら、何かが違う…そんな気がするのです。

そう。
本作は人種や体型などの差別に抗う物語。
ですが、主人公側も差別側と同じ“力の論理”で障害をひっくり返しているに過ぎないのですね。もしも、主人公の《トレイシー》が歌って踊れる女の子でなかったら?状況が好転することはなかったでしょう。

確かに不当な差別を許容する必要はありません。間違っていることは「間違っている」と声を上げて抗うべきです。でも、闘うべき相手と同じ視点の高さに立ってしまったら…それでは同じことの繰り返し。一部のマジョリティがマイノリティになるだけで、また差別が繰り返されるのです。

だから、大切なのは“思いやり”
差別する側を包み込み、彼女らが「自分たちは間違っている」と気付くためのアプローチが必要なのです。そう考えれば、本作で最も観たかったのは、悪の象徴となる《ベルマ》の過去。何故、彼女が意固地にも“地位”にしがみ付くのか…その理由が知りたかったですね。

まあ、そんなわけで。
正統派のミュージカルとして、音楽に身を浸せば楽しめる作品です。しかし、本作のテーマからすれば「ああ、楽しかった」で終わらせずに、もう一歩前に踏み出して考えるべきでしょう。大切なのは、髪の毛をヘアスプレーで固めることではなく、一本一本を大切にすること。その気持ちだと思います。
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