セルゲイ・パラジャーノフ監督の遺作。慕い合う恋人マグリとの結婚のため、千の夜の旅に出る吟遊詩人アシク・ケリブの物語。婚資金の代わりに花弁を用意するケリブはいかにも詩的で、マシンガンを撃ち鳴らし祝砲とするシーンのシュールさも際立ちます。
ーー接近
そんな本作は、これまでのパラジャーノフ作品とは趣向の異なる演出が見所でした。例えば『ザクロの色』で魅せた静的な構図は鳴りを潜め、本作では空間を存分に用いた動的なカメラワークが目を引きます。また、アヴェ・マリアといった誰もが知るクラシック曲をbgmとして用いた点もこれまでの作品には見られなかったように思います。印象論の域を出ませんが、本作はパラジャーノフ監督の醸し出す"超然"とした作品世界に揺らぎはないものの、過去作に比して一層観客の側に"寄せて"くれていたように感じられました。
ーー邂逅
惜しむらくはパラジャーノフ監督の観客への"接近"が本作で幕を閉じてしまったことでしょう。しかし、パラジャーノフ作品に影響を受けた映画が今も生まれ続けているという事実は、パラジャーノフ監督の精神が生き続けていることを示しています。かくして"接近"は"邂逅"へと到ったのだと言えましょう。