ばーとん

甘い生活のばーとんのレビュー・感想・評価

甘い生活(1959年製作の映画)
4.8
おっそろしい映画。
これが60年近く昔に撮られたというのが信じられない。
金持ちも貴族も宗教家も娼婦も大衆すべて等しく堕落しきった
現代社会の病理を誰よりも早く喝破した天才の所業。

家族だの愛だの宗教だののあらゆる美徳が虚しくなり
軽薄なジャーナリズムの餌ほどの価値しかなくなった時代に
表層的な人間関係のみに依存して刹那的なパーティーとセックスに耽溺する
孤独で哀しい怪物たちの饗宴が続く。
ラスト30分の戦慄は「ビリディアナ」にも通じる凄まじさ。
(こちらの方が一年早い。ブニュエルは本作をきっと観ただろう)
日本人は戦後9年でゴジラに東京を破壊させたが、ゴジラの上陸しなかったイタリアは生き延びてここまで腐敗してしまった。

だがこの滅茶苦茶なドタバタ劇すらフェリーニの後の作品、例えば最晩年の「インテルビスタ」にも通じる、狂騒の果ての儚く美しい夢のようにさえ映る。「甘い生活」に出てくる蠅の如きパパラッチ連中のカメラを映画のカメラに持ち替えたのが「インテルビスタ」で、根源的な暴力性は似通ったものとフェリーニは自覚していたのかも知れない。

とは言え社会が退廃し信仰すら虚しくなった時代に唯一救いとなるのは
やはり芸術で、映画はその先鋭だ。
フェリーニは映画を信じていて、究極のソドムを描きながら
このソドム自体が映画であることで辛うじて救われることになる。
「甘い生活」は正しくフェリーニ自身の映画論として読むことが出来るし
この恐ろしい地獄巡りを遊覧ヘリに乗った気分で愉しむことだって可能だ。
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