フラハティ

モーターサイクル・ダイアリーズのフラハティのレビュー・感想・評価

3.7
あなたはなぜ旅をしているの?


「あれ、俺恵まれてね?」
エルネスト・ゲバラがチェ・ゲバラの一歩を踏み出した旅。
旅を始めた理由はただ自分を探すため。
はじめは単なる大学生のロードムービーだった。
恵まれた家庭。
医者として、成功の道を進もうとしていた。
しかし若きゲバラの目に映ったのは、貧しく苦しんでいるラテンアメリカという世界だった。
その世界が彼を大きく変える。

ゲバラがどうして革命家へという道へ進んでいったのか。
ゲバラが遺した『モーターサイクル南米旅行日記』を元に、ロバート・レッドフォードを製作総指揮に据え、本作を綴った。


ゲバラは恵まれた者として、生まれてこの方何の不便もなく生活していた。
自分がまだ見ぬ世界を、おんぼろなバイクで友人と共に旅をする。
医者として救える命は多くあるのかもしれない。
だが、救える命は限られてはいないか?
貧しくて治療を受けられない人々はどうすればいいのか。
旅のなかで自身にできる最大限のことを行う。でもそれだけでは足りない。

本作の前半はただのバイク旅行で、後半との変化の意味も込めたところも多く、仕方がないが前半を退屈に感じるところも。
でもその変化を描いているのが本作の最大の肝なので、無駄なシーンはないといってもいいかな。旅と同じだね。


自分探しのためと言い、世界を旅する人間は数多い。
きっとそのほとんどは、何も変わることなく、日常のなかに自己を埋没させていくのだろう。
同じように、職を探すために旅をする人間も数多い。
きっとそのほとんどは、何も変わることなく、不平等な世界に自己を埋没させていくのだろう。
この世界を変えたい。
そう心に誓う青年の姿は、やがて世界を大きく変える存在へと育っていく。


本作でめちゃくちゃ印象に残るのは、既存の世界のあり方や、規則をゲバラたちはすべて決めつけないこと。
自分が正しいと思うことは、どう言われても正しいと思うことをする。
ゲバラは常に「他人を思う行動を起こすこと」の大切さを信条としていた。
それはエゴでも何でもなく、恵まれた世界と貧しき世界どちらをも体験したゲバラにとっては、当たり前に芽生えた思想なのかもしれない。


確かに本作は記録映画的な側面があったりもする。
だが、ゲバラの心情の変化を巧みに描いた作品だと思う。
ゲバラは外界の世界に触れることで、自身の内面世界を再構築した。
平等な世界を作り上げるために、世界と戦う必要があると、薄々感じていた。
次第に確信へと繋がっていく。
自己演出力が高いと語られることもあるゲバラだが、本作からもそんな彼の性格が垣間見える瞬間もあり、割と芯を喰った作品。

今やゲバラは伝説の男となり、世界中で英雄と語られる。
ゲバラが望んでいた世界はまだ今も完成の時を迎えてはいない。
フラハティ

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