明宏

ハリー・ポッターとアズカバンの囚人の明宏のレビュー・感想・評価

-
丸の内ピカデリーで『アズカバンの囚人』を鑑賞。映画館で観るのは17年ぶりか。
あるレビューで"この映画は映像と物語の両面で「光」の描写を突き通している。"と書かれていて、そこに注目して観ていた。

物語はハリーがダーズリー家の自室で本を読むために、明かりを照らす呪文「ルーモス」を唱える場面から始まる。ここは印象的で覚えていたんだが、今回観て驚いたのは、この映画、エンドロールを締め括るのはハリーの声で唱えられる「ノックス」という明かりを消す呪文だったこと。
シリウス(星)・ブラック(黒)という名前に象徴されるように、たしかにこの映画は光と闇の映画だった。
暗闇で静かに上映を待つ我々の目の前にまず明かりをつける魔法によってはじまり、魔法の物語は明かりを消す呪文で終わる。これは映画が魔法そのものであることの証明だ。
ホグワーツへと向かう列車の中でハリー達は真っ黒な姿をした生物ディメンターと対峙するという恐ろしい経験をする。ホグワーツに到着するとダンブルドアは生徒達に向かってディメンターの危険性を説いたのち「たとえ暗黒のときであっても幸せは見つけられる。明かりを灯すことを忘れない者にはな」と告げる。
ここで学生時代仲間達に囲まれた栄光の日々を過ごし、後に無実の罪で投獄され、脱獄後も地下活動を余儀なくさせられるシリウス・ブラックの人生を思わされる。
シリウス・ブラック役を演じた俳優ゲイリー・オールドマンはこれまで、『レオン』『フィフス・エレメント』『エアフォース・ワン』『JFK』等の映画でアクの強い悪役ばかりを演じてきた俳優であり、自分の悪役ばかりのキャリアに悩んでいたこともある。そこに来てのシリウス・ブラック役という名配役‼︎クレイジーな殺人鬼とされていたその人は子煩悩なハリーの後見人だというのだから配役までミスリードを誘っている。しかもその後ゲイリー・オールドマンはバットマンを支えるゴードン刑事のような役をやるようになるわけだから。シリウス役はその転換点と言っていいと思う。
『賢者の石』『秘密の部屋』とは打って変わって彩度を抑えた画面作りが、さながら白黒映画を思わせるこの映画は、後に『ゼロ・グラビティ』『ROMA』を撮ることになるメキシコ出身のアルフォンソ・キュアロン。
キュアロンは杖の明かり、街灯、月明かりを作中の必然性のあるライティングに活用してこの映画を白黒映画、光と闇の映画に仕立てている。光はくっきりと、闇は真っ黒に。映画は暗いのにとても見やすい。

物語のラストではディメンターという闇(それは幼い頃の両親との死別でもある)に覆われるハリーを対岸から眺めるもう1人のハリーが「エクスペクトパトローナム」というこの上なく力強い光によってシリウスもろとも救い出してしまう。ディメンターという闇とエクスペクトパトローナムという光が対置される。
そして、忍びの地図を模したエンドロールの後「いたずら完了。ノックス」というハリーの台詞によって終わる。

「たとえ暗黒のときであっても幸せは見つけられる。明かりを灯すことを忘れない者にはな」という台詞。明かりは魔法で、明かりは映画なんだと思うと、さらに映画鑑賞者にとって素晴らしい台詞じゃないかと思った。
明宏

明宏