くまちゃん

エクスペンダブルズのくまちゃんのレビュー・感想・評価

エクスペンダブルズ(2010年製作の映画)
4.0
アクション映画はジャンキーな一つのジャンルとして時にはB級のような扱いを受ける時がある。
公開当時の熱量は時の流れとともに風化し、やがてイジリの対象になる。
映画としてはメッセージ性やアート性、奇抜で斬新で前衛的な作品が、アクションとしてはヒーローやスパイといった超大作が「良い作品」だとされる。
何故か?
これほど肉体を酷使し、精神を研ぎ澄ませ、心身一体となったその時究極の表現者へと大きく躍進できるというのに。

世界一筋肉を美しくダイナミックに撮る漢シルヴェスター・スタローン。
今作は彼のキャリアにおける集大成であり、一時の熱狂のため消費されていった筋肉野郎達の逆襲と言える。

基本的にイケメンも若人もでていない。
強いて言えばテリー・クルーズとジェイソン・ステイサムが一番の若手である。
スタローンに比べれば40代50代などまだまだひよっ子なのだ。

昨今ハリウッドでは人種の多様化に取り組み、白人だけのキャスティングを避けるように配慮することが増えたように思う。しかし特にアジア系に顕著なのが、出演はしているが活躍の場面がないか、極端に少ない事がまだまだ多い。
ポリティカル・コレクトネスに沿った結果添え物のようなアジア人。
ただ、出演しているだけのアジア人。
これを多様性と呼ぶにはあまりに切ない。
今作におけるジェット・リーは確かに出番は少ない。だが、ジェット・リーの小柄な体型をいじったり、「金にがめついチャイニーズ」といったステレオタイプな中国人でありながら、仲間思いな部分、低身長を気にするナイーブさ、ドルフ・ラングレン演じるガンナーとの確執と和解など、アジア人の必要性、合理性があり、ジェット・リーに対する強いリスペクトが見て取れる。もちろんカンフーアクションも健在である。

なぜヤン(リー)とガンナー(ラングレン)は仲が悪いのか?

それは現実世界における中国とスウェーデンの外交問題が関係しているのかもしれない。
中国とスウェーデンは17世紀から貿易により交流があり、1950年には中華人民共和国としてスウェーデンと国交が成立した。
今作が公開された2010年はちょうど国交成立60周年のアニバーサリーである。
数年後には中国人観光客による騒動が外交問題へと発展したりと、決して仲がいいとは言えないが経済的に互いを支える存在である。
つまりそれはヤンとガンナーに重なる。

二人は常にいがみ合い拳を交え、時には死闘を繰り広げた。バーニーが手を貸さなければヤンは死んでいたかもしれない。それでもガンナーは殺すつもりはなかったと言い、物語のラストにはヤンと和解している。次作では二人がペアで行動し、彼らの衝く悪態も微笑ましく見えるではないか。

今作のキャスティングにおいてミッキーロークはキャリアの低迷時に自身の映画へ誘ってくれたスタローンへの恩返しのつもりで出演したという。
ヴァン・ダムへはスタローンが直電でオファーしたがスケジュール上都合が合わず、テリー・クルーズ演じるヘイル・シーザーは本来「デモリションマン」で共演したウェズリー・スナイプス用のキャラクターであった。
後にヴァン・ダムは2に、スナイプスは3にそれぞれ出演している。
作中ステイサムがスペイン語に言及し、その様子をスタローンがゾロと形容する場面があるが、「マスク・オブ・ゾロ」でゾロを演じたアントニオ・バンデラスが3に出演している。スタローンとは「暗殺者」で共演済み。
ドルフ・ラングレンとは「ロッキー4」以来の共演となる。
ジェイソン・ステイサムとは公私共に仲が良く、後にステイサム主演の「バトルフロント」の脚本をスタローンが手掛けた。
さらに80年代90年代のアクション映画界を牽引した戦友アーノルド・シュワルツェネッガーとブルース・ウィリスも出演している。

随所に散りばめられる各個人のメタ的な要素も、元ネタを知ればより一層楽しめるだろう。

今作はスタローンが培ってきた映画力と筋力と人脈が見事に結実しパンプアップしまくった熱すぎるマスキュラームービーなのである。
くまちゃん

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