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剣鬼のMASHのレビュー・感想・評価

剣鬼(1965年製作の映画)
5.0
三隅研次の剣三部作の一つ。個人的に三隅研次、いや時代劇映画の中でも屈指の名作だと思う。アクションの中で暗く重い人間ドラマを描いていく。斬り合いのシーンでここまで心が苦しくなる映画は他にはないだろう。

犬の子として蔑まれ続けてきた班平(市川雷蔵)の唯一の才能、それは美しい花々を育てることだった。しかし、剣に魅入られてしまったことで彼の人生が大きく変化していく。花を愛する男から人斬りに取り憑かれた剣鬼へ変わってしまう班平は、まさに市川雷蔵にしか演じることができない。花を愛でている少年のような表情をしたかと思えば、自分を殺そうとしてきた相手を必要以上に殴り殺してしまう。腰が低い丁寧な人物でありながら、蔑まれ続けてきたことへの怒りや悔しさがギラリと光る剣を見つめるその眼に宿っている。観客は優しい班平のことを好きになっていくため、彼が酷い目に遭わされる様子に怒りを覚え、人斬りになっていく様子に心を痛めるのだ。

他にも印象深いシーンが多過ぎて全て上げることは不可能だが、この映画はとにかく対位法が多数用いられている。美しいとは言えない荒々しい殺陣と美しい自然の風景が、より彼の人生の残酷さを際立たせる。特にラストの美しい花畑での斬り合いは本当に素晴らしい。花畑の上に死体の山が出来上がっている衝撃は言葉にできない。ふと青空を眺める血だらけの班平の美しい横顔に、彼の人生の全てが込められているようだ。

現代にも通じる差別される者の内面が、時代劇という形で見事に描かれている。班平には花を愛する心があり、正しく生きようとする意志があり、そんな彼を認める人や愛してくれる人もいた。だが、一生ついて回る出自という影からは逃れることができず、残酷な世界に傷付けられ、いつしか彼は自己の存在証明のために鬼へと変わってしまった。出自のために美しさの中で生きていくことが許されなかった班平の姿に、観客もまた咲のように彼の名を呼ぶことしかできないのだ。例え彼の声が返ってこず、山びこだけが鳴り響き続けたとしても
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