おーたむ

ゼロの焦点のおーたむのレビュー・感想・評価

ゼロの焦点(1961年製作の映画)
3.7
「砂の器」「張込み」に続き、松本清張原作×野村芳太郎監督の作品を鑑賞。
2000年代に入って再び映画化されたということもあって、私はこの作品の名前も聞いたことがありました。
まあ、なかなか面白かったです。

「張込み」とは違い、本作は序盤から非常にテンポよく進み、見やすいです。
お見合い結婚をした新婚女性の夫が行方不明となり、自身もまだよく知らない夫のことを、新妻であるその女性が探すという話ですが、どんどんとシーンが切り替わり、夫の過去についての詳細や、その行動に不審な点があることなども、焦らされることなく明らかになっていきます。
興味を途切れさせることなく終幕まで見せきってくれた点は、素直に良かったです。

ストーリーと時代、舞台の取り合わせも、寒々とした悲しい空気を醸成し増幅させるのに、とても効いていました。
戦後期、冬の日本海を臨む北陸という設定は、時代や社会の被害者とも言うべき人たちの孤独や悲哀を、よりいっそう際立たせて映し出していたように感じましたから。
過ちを犯した人物の行動に共感はできないけれど、そうでもしなければどうやって幸せになれただろうかとも思われ、なかなかやるせない感慨がありました。
ちゃんとムードに浸らせてくれたところも、上手かったと思います。

ただ、話も演出もとても2時間サスペンス的で、2時間サスペンスを見慣れた現代の目で見ると、新味に欠けるところはあります。
探偵役と犯人が断崖で対峙し真相が明らかになっていくなんて、モロに火サスです。
独白による状況説明についても、作品を分かりやすくしている一方で、醸成されたムードを逆に削いでいるようにも見えたりして、ちょっと良し悪しを感じます。
もちろん、そうした2時間サスペンス的な要素の源流に位置するのが本作だってことでしょうから、そこを捕まえて欠点だと言うのはフェアじゃないと思いますが、個人的には、映画を見たという満足感がイマイチだったなと感じたのも事実で…。
作品としての好みはさておいても、「砂の器」や「張込み」には、そういう満足感を感じられたんですけどね。
何が違ったんだろ。

まあでも、その部分はそれこそ、好みの問題に過ぎないのかもな、とも思います。
全然面白くなかったというわけじゃなく、面白かったけど、もうワンパンチ何か欲しかったって感じで、言い換えれば、手堅く楽しめる作品だったとも言えますし。
やるせない話をさらっと堪能できるという意味では、松本清張映画の入門書として、うってつけの一本かもしれません。
さて、犬童一心版はどうしましょうか。
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