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デンジャラス・ランのクロのレビュー・感想・評価

デンジャラス・ラン(2012年製作の映画)
2.5
CIAだとかスパイだとかという話は、それが我々観客からすると非日常のことなので映画として楽しめる恰好の題材だからこそ様々な映画でこの設定が使われるのだと思います。しかしこの映画はCIAの裏切り者という設定を通して、決して非日常じゃないテーマを描いていると思います。それは『アメリカの敵はアメリカから生まれる』ということです。

最近のハリウッド映画は近年の不況もあって大富豪が悪役だったり格差社会が映画の背景として挙げられることが多いと思うのですが、結局のところそれってアメリカが生み出した悪にすぎないんですよね。この映画もデンゼル・ワシントン演じるトビン・フロストが悪役のように最初は描写されていますが、彼はアメリカおよびCIAの暗部を見つめているうちにCIAを出て『アメリカの敵』となってしまうということがわかる。ある種『ダークナイト』と近いテーマを取りあげていると思います。CIAという設定を使って観客にアメリカの暗部を見せられる体験というのを追体験させている。この暗部自体がフィクションなのはちょっと残念でしたけどね。でもこういったことは『フェア・ゲーム』や『グリーン・ゾーン』で題材にされるように事実として往々にあることですしリアリティは失われていない。。劇中で何度かセリフとして発せられる『嘘も真実になる』という物語をうまく描いていると思います。

といっても娯楽作なのでツッコミどころは多くて、なんであんなに人がたくさんいるところで護送するんだよ!とかなんでたったそれだけのことで居場所が突き止められるんだよ!とかいろいろと気になるのですが、それはまあ置いておいて僕が一番気になったのは『暴力的なシーンがやたらと多い』ってことなんですよね。

『アクション』と『暴力』って違うと思うんですよね。人を殴るというアクションにしたって例えば『ボーン・アルティメイタム』なんかは速さを見せつけることでスタイリッシュなアクションにしてそこにある『暴力』は見えないようにしてるじゃないですか。映画で『暴力』をわざわざ強調することの意味って、最近の映画だと『ドライヴ』や『ヒストリー・オブ・バイオレンス』みたいに暴力描写自体が主人公の過去を示唆している、とか何か意味が付随してくると思うんですよね。あるいは『海炭市叙景』で加瀬亮が奥さんを殴るような、あの人そのものの痛さを描くための暴力。まあ『アウトレイジ』みたいにそれ自体を面白がっている映画もありますけど…

で、この映画はカーチェイスとか逃走劇とかといったアクション以上に暴力が目立っちゃってるんですよね。やたらとグーパンチするシーンが多い。そのグーパンチに肉体的な痛みはあっても精神的な痛みを感じないんですよね。ホントにただの暴力。この映画はもっと逃走劇、追跡劇の描写に力を入れるべきで、画面をブレさせながらグーパンチを撮る必要なんてなかったはずなんですよ。そこは非常に残念でした。

最後に余談を一つ。サッカー場でトビン・フロストを探すシーンで『瞳の奥の秘密』みたいなシーンが出てくるのかなとちょっとワクワクしたのですが、いやー結局ただの捜索で終わっちゃいましたね。今さらながら『瞳の奥の秘密』のサッカー場のシーンは凄まじいなあと全然関係ないことを考えたりもしました。
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