ハル奮闘篇

ボディ・ダブルのハル奮闘篇のレビュー・感想・評価

ボディ・ダブル(1984年製作の映画)
4.3
【デ・パルマらしさ炸裂! 「傑作以外」ではベスト!?】

 1980年「殺しのドレス」81年「ミッドナイトクロス」(ともに製作年)の封切の時は高校生でした。
 当時は裸が出てきさえすれば何でもコーフンしたのかもしれませんが、今ならこの2本の官能、エロティックが、ブライアン・デ・パルマの高度なテクニックに裏打ちされていることがわかります。
 長廻しで人物を追いかけ回すカメラ、ここぞでの緊迫のスローモーション、ドキドキのカットバック編集、リアルタイムな分割画面などなど。デ・パルマ映画に特徴的なテクニックが既に使われていたと思います(←ごめんなさい、確認してないんですが)。もう、脳が官能を感じるように作られているんですね!
 シチュエーションや展開の面でも「主人公だと思われた人物が早々に殺されてしまい、身内がその謎に迫る」とか「主人公の恋は報われない」とか、デ・パルマ映画の形は出来上がっているようです。
 現在ではこの2本は、熱心なデ・パルマのファンだけでなく、多くの映画ファンに傑作として認知されています。(いるんじゃないかな。いるといいな。)

 それに対して、この「ボディ・ダブル」はちょっと違いますね。だって、サスペンスが緩い(そんなに怖くない)し、後半ダレるし、ラストにやりきれない切なさも残らない。「傑作」と言うにはちょっとニュアンスが違う。
 この映画、デ・パルマが好きそうなヘンタイっぽい要素が満載ですよね。
 閉所恐怖症に始まり、主人公が恋人をネトラれる、「裏窓」剥き出しのノゾき趣味、「めまい」が好きなんだねの尾行、下着ドロ、殺害現場目撃、などなど。
 ネットの映画評では「この時期、批評家に、やれヒッチコックの焼き直しだ、やれ悪趣味だと叩かれて、デ・パルマがヤケになっていたのでは」という説も読みました。考えてみると、この後、堂々たるメジャー大作「アンタッチャブル」で復活(?)ですからね。そういう時期だったのかな(笑)。

 さて。
 でも、じゃあ、「傑作とは言えない」ボディ・ダブルが気に入らないかと言えば … 大好き!!
 そもそも、傑作では「エロティック」と言っておいて、この映画では「ヘンタイっぽい」なんて言っちゃって、ゴメンなさい。

 中盤にめっちゃ好きなシーンが3つ。

 高級デパート(ショッピングビル?)で買い物する女を至近距離で尾行する主人公。もう、ここをロケ地に選んだ時点で半分勝ち。お得意の追いかけまわし撮影も、屋外(吹き抜け?)でロケすることで俯瞰の画が加わって、この場面の撮影、編集が生み出す尾行のドキドキ(むしろワクワク?)がすごい。

 それから浜辺のマンション(ホテル?)。海に面した広いバルコニーが、階ごとに段々畑状になっているという状況説明が、浜からの引きのショットで一目でわかる。女のひとつ上の階の客が帰ったのを見届けて、主人公の男はすかさず上階のバルコニーに不法侵入。すると上から、女の動向が覗けちゃう。このシーンもロケハンの勝利。

 そして何と言っても、通路(トンネル)から出てきた男と女の、あまりにも唐突な、激しいキスシーン。もうカメラが360度ぐるぐる回っちゃいます。もう、これでもかというくらいの官能の嵐。これ、最初はちょっと「ここまでやる?」と苦笑いして見てたんだけど、音楽の美しさもあって、なんだか、次第に引き込まれてグッとくるんですよね。

 この映画のヒロインは後半に登場するメラニー・グリフィスってことになるんでしょうけど、僕としては前半に登場するデボラ・シェルトンという女優あってこそのこの映画、だと思っています。

 あ、そうそう。今回観直して気づいたんですが。この映画、「中盤は極端に台詞が少ない」んです。つまり、女を覗いているうちに恋をして、尾行をする一連の場面ですね。台詞なしで、映像だけで物語っている。これこそが映画なのでは!?(←自信なさげ) 
 まぁ、少なくとも、覗き趣味の主人公の姿をこの映画で覗くことで、自分の欲求を満たしていることは間違いありません。

 そんなわけで、デ・パルマ映画の中で「傑作以外ではベスト」だと思っています。