塚本

ボディ・ダブルの塚本のレビュー・感想・評価

ボディ・ダブル(1984年製作の映画)
3.6
第9世代に於いて最もヒッチコキアンたる資質を包み隠さず、作品を撮り続けたのはブライアン・デ・パルマであることは疑う余地のないところだと思いますが、もはやヒッチコックへのオマージュを超えた、近視眼的なフェティシズムに蒸せかえった、彼の狂気にも似た偏愛ぶりはリアルタイムでヒッチコックを知る小林信彦などの”良識派”からは疎んじられていたもんでした。

かく言う俺は、アクロバティックな撮影手法がこれでもか、と言わんばかりに陳列された彼の造るパノラマ島にすっかり魅せらたクチでした。

そんな彼のフィルモグラフィーから敢えて一本選ぶとしたら、「ボティダブル」です。
この作品を観るとデ・パルマがヒッチコックの”何”に一番惹かれていたのかが、分かる作品だと思うんです。
…それは、ヒッチコックが造り上げた数々のサスペンス手法ではなく、彼が潜在的に持つ”変態性”なんだと思います。
“ジェームス・スチュアートやケイリー・グランド”といった白日の下に輝く石をひっくり返すことによって、姿を現わす地虫の蠢き。

この見てはいけないタブーを孕んだ、アブノーマルなエモーションを、もはや制御不可能の域にまで達した、カメラワークと編集で映像に叩きつけております。

電動ドリルで女性を貫き、それが床を突き破って天井から血のシャワーが降るなんてこと…鬱屈したリビドーの爆発的な発露以外の、何ものでもないでしょう。

…彼はその後、憑き物が降りたように大作「アンタッチャブル」を撮り、何だか普通の職人監督になっていきます。
塚本

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